──ぜんぶ終わりにしよう。
あなたは弾かれたようにこちらを振り返る。
なぁに、変な顔して。別に爆発音がした訳でもあるまいし。
「なんで、突然そんなこと、」
わなわな忙しない口許が紡ぐ言葉はぐわんと揺れて、なんだか頼りない印象を受けた。普段とはまったく違う姿を見てもちっとも動かない心臓にそっと手を当てる。大丈夫、それでいいと安心させるみたいに、手のひらの熱を分け与える。
なんでもなにも、先に火蓋を切ったのは貴女のほうだ。
「分かったんだ。僕らが釣り合ってないこと」
「そんな訳! 私と君が釣り合わないだなんて有り得ない話さ。いったい誰に吹き込まれて──」
「それ」
言葉を遮るように指をさす。
あなたはいつもそうだった。いつもいつも、僕とあなたの意見が食い違うたび、僕が誰かに唆されたのだと言って、僕自身の考えだとは思ってくれない。あなたの言葉と僕の言葉がまったく同じだと信じて疑わない。
集団をまとめる力であるそれは、僕にとっては、僕とあなたを縛り付ける枷でしかなかった。
「言ってくれれば改めたのに……」
「言ったよ。何度も、何度も、僕の意見だって。それでもあなたは信じてくれなかったじゃないか」
皆をまとめ率いていくあなたの背中に憧れて、その眩しさにいつからか惹かれていって。まさかこちらを見てくれているなんて思わず、ただあなたを見つめていた。
はじめて目が合った瞬間を覚えてる?
僕は、輝かんばかりの瞳に目を奪われて、嗚呼やはり僕はこの気持ちから逃げられないんだ。と腹をくくったからよく覚えている。
あの時、あなたが僕に言った言葉を覚えてる?
あなたは僕に「私を見つめる君の瞳を見ていた」と言った。「私を信じる君を、私も信じよう」と。そんなあなただから、僕も報いたいと思ったんだ。
だけど、実際はどうだろう。
ねえ、少しでも僕を信じてくれた瞬間はあった? そんなに信じられなかった? ねえ、
「僕は、そんなに頼りない……?」
あなたは此処ではじめて目を見開いた。違うと、そういうつもりじゃなかったのだと訴える。
その姿に顔を背ける。背けてしまった。もう取り返しがつかないのだ、僕らは。
だから僕は、あの時と同じように腹をくくる。
「だから、ね」
身勝手だと分かっていても、終わりにしたいと思ったんだよ。
▶終わりにしよう #74
7/16/2024, 10:26:35 AM