空はこんなにも
空はピンク色だった。
砂嵐のせいだよ、と夫が言う。
(夫…なんて新鮮で素敵な言葉!)
私がこんなにわくわくしているのに、「大丈夫?」と彼は心配そうだ。
「どうして?ピンクって大好き」
「そうじゃなくて…当分外には出られないし、シティにもまだ人は少ないし、娯楽もないし」
そんなことは何でもないのだという話は、今まで何度もした。
女優という職業のせいで華やかに見られがちだけど、もともと私はひどい田舎の出身だ。
お堅い惑星開発技術者の彼と電撃結婚したときも、同時に引退したときも、彼に付いて最初の火星移住者になると決めたときも、ずいぶん周りに反対された。
でも素の私を全部分かっている人はいない、愛する夫でさえも。
「私はね、あなたがいれば幸せなの。一生かけて証明してあげる」
ドームの窓辺に寄り添って、暮れてゆく空を二人で眺める。
初めて見る火星の夕焼けは、ああこんなにも青いのね。
6/25/2025, 1:19:04 AM