シオン

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 目が覚めたら知らない天井だった。手と足が台に拘束されているらしく、動かなかった。
 何者かに捕まってしまったのかな、なんて思考が回り辺りを見回した時、静かに扉が開いた。
「………………生きてる?」
 小声で囁いてきたのは権力者だった。来た方向に視線を向けて確認してるからゆっくり扉を閉めてこちらへやってくる。
「……権力者」
「生きてるね。よかった」
 彼女は安心したように声をあげると、背負っていた鞄から何かを取り出した。
「これじゃない、これでもない……。………………あ、あった」
 何か細長い物を取り出すと、足の方を何か操作した。すると『カチッ』と小さい音が鳴り、足が自由に動くようになる。彼女はそれを確認してから手の拘束も外してくれた。
「ありがとう、権力者」
「どういたしまして」
「それにしても、なんなんだい。この拘束は。誰が一体どんな目的で…………」
「『権力者集団』が『この世界の理を乱した演奏者くん』を『捕まえて監視下に置くため』だよ」
 淡々と彼女はそう言った。
「…………権力者集団?」
「うん。本当はボクだけが権力者な訳じゃないの。騙しててごめんね」
「いや、いいさ。それより、きみの仲間を裏切るような真似をしていいのかい?」
「………………ボクは演奏者くんがいなきゃ、どっちにしろ死ぬから、せめて君を助けたかったの」
「………………は?」
 死ぬ? この世界にもそんな概念があるのか? 迷い子たちが住人にされた後も、飲み食いなどはしなくていいらしいと聞いていた。だからそもそも死という概念すらないのかと、そう思っていた。
「……死んではいけない」
 心の底からそんな言葉が飛び出た。まだまだ、権力者と一緒にいたいなんて無邪気な気持ちが浮かんでくる。でも、彼女は寂しそうに微笑んだ。
「ごめんね。どっちにしろ、最初から決まってたの」
 もういいでしょ、なんて風に彼女は僕の手を取って、彼女が来たのと反対側の方へ行かせる。
 壁をグッと強い力で押すと開いた。どうやらここは2階らしい。地面まではそう遠くない。
「じゃあね」
 彼女はそう呟いて僕を下に落とした。宙で一回転して地面に着地した同時に、飛び降りてきたその場所が閉じられた。

8/7/2024, 2:52:25 PM