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「正直」

大きなため息をついて目の前の二人を見ていた。正直に話せば許してあげると確かに言った。いや、言わなくてもわかったけどね。二人の前のダンボール箱からくうくうと声が聞こえているからね。

勘弁してよと箱を開けた。あーもう、目が合ったじゃない。真っ黒い子犬がおすわりをしてこちらを見ている。かわいい!抱き上げるとぺろっと頬を舐められた。ああ!顔の前まで抱き上げて瞳をのぞけば、丸い目が笑っているようだ。

もう無理。正直になろう。
「かわいいね。うちの子にしようか?」
二人の顔にぱあっと光がさす。この子たちもきっと一目惚れしたのだろう。ばたばたと車に乗り込みペットショップに向かう。

「そうだ、お父さんに知らせないと」
動き出す前に写真を撮って送った。
「今日から新しい家族が増えます」というメッセージとともに。

必要なものをペットショップでそろえ、店員さんに育て方を聞き、家に帰って大騒ぎしながら居場所を作った。食事はまだ小さいので普通のドッグフードではなく、小犬用のものを買った。待て待て、これからどれだけお金がかかるのだ? いや、もう決めたのだ。いざとなれば私がパートに出よう。

夜になって夫が帰ってきた。怒っているだろうか。なんの相談もせずに決めてしまった。
「ただいま」
「おかえり」
「あー、かわいい!」
「ほんと?嫌じゃない?」
「嫌なわけないよ。大歓迎」

子どもたちが両手を上げて喜んでいる。
「ありがと。大好き」
小犬のおかげで正直になれた私は、子どもたちには聞こえないように夫だけに聞こえるように言った。

6/2/2024, 1:07:19 PM