どこにも書けないこと
ある夜のこと。ベッドで輾転反側していると、瞼越しの部屋が不意に明るくなって、目を開けると窓の外が黄色く光っていた。
こんな夜中に何の作業をしているのだ。そう思ったのも束の間、カーテンと窓がさっと開いて、光が部屋を真っ黄色に照らした。
泥棒か。
しかし、身体が金縛りのように動かない。こういう場面で冷静に対処できる方だという自負があったのだが、実際はこんなものか。
暗澹とした気分で窓の光を見つめていると、黒い影が浮き上がってきて、それはエイリアンらしき形になった。逆卵形の頭の、全身タイツ風フォルム。
エイリアンは窓枠から降りると、ベッドで固まる私の横にちょこんと座った。そして、首をこちらに向けた。
途端、頭の中に弾けるようなイメージが浮かんだ。イメージと言ってもそれは映像的ではなく、言語的でもなく、しかし濃密な論理の構成体であった。パズルのピースのように対になりうる答えがあり、しかしその答え方は会話のように無数で、私はその選択肢から、快感情が予測された一つを選んで弾けさせた。エイリアンは頭蓋の裏側で笑ってみせた。それは幾何学模様のように繊細で洗練された美しさだった。
エイリアンと私は、一晩中意思を通わせた。時に侃々諤々と議論を交わし、時に喋々喃々と喜び合った。
とりとめのないようでいて、そこにはなにか目的があった。子供と子供が共同で積み木を完成させる時のような、霞がかった最終到達点が設定されていた。
そうしてついに、その頂点に到達したのを感じた。
縦横無尽のイメージの海を遊弋していた意識が、見当識を取り戻して現実に収束していった。
エイリアンはおもむろに立ち上がった。そして、もと来た窓へ引き返し、光の消滅とともに一瞬で姿を消した。部屋は真っ暗になった。外がまだ夜であることが信じられなかった。
エイリアンは結局何がしたかったのか、会話の内容は何だったのか。私は完璧に理解しているし、今でも鮮明に思い出せる。しかし、それを言語で表すことができない。
つまりはそう、どこにも書けないことなのだ。
2023/02/08
2/7/2023, 9:45:35 PM