たまき

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#18 風に身をまかせ


「あ、ダイナミックやってる」

テレビに目を向けると、氷山にぶつかる船を舞台にした映画が放送されていた。だいなみっく?

「なんかこの服がバサバサしてるとこ、ムササビみたいだよね」

「え?」

「だから、ムササビ」

「むささび…」

なんて奴だろう。
そして私はなんでこいつと居るんだろう。

「あ、ムササビと言えばね」

くりん、と音がしそうな勢いで
彼はこっちを向いた。

本当、なんて奴だろう。
何度思ったか分からないが、
それでも奴との付き合いは続いていくんだろう。
面白くないんだけど、やっぱり好きなんだ。

だから代わりに謝る。ごめん。

私はリモコンを手に取りテレビの電源を落とした。


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むささびは木末(こぬれ)求むとあしひきの山の猟夫(さつを)にあひにけるかも

ムササビは日本の固有種で、飛膜で滑空し、木の葉や実を食べます。
また、古墳時代の埴輪が出てくるほど昔からいる動物です。

万葉集でも詠まれ、上の一首は志貴皇子によるもので、移動中のムササビが猟師に捕まっちゃったなあ、というものです。
出てこなければ生きられたのにと、
権力争いに敗れた他の皇子や貴族の姿を重ねた。
という話も出てきます。

彼は権力争いに巻き込まれながらも、
目立たぬように過ごすことで、
結果として彼の息子が天皇となりました。
今日の皇室も彼の子孫にあたるそうです。

私には、ムササビが夜に紛れて風を読み、
尻尾で舵取りをするイメージが、
志貴皇子の方に重なりました。
状況に逆らわないことで生き残った。
そんなような。

彼の息子が天皇になったのは自身の死後であり、
本人は風に乗れなかったと思ってるかもですが。
今調べた中で感じたイメージです。あしからず。

私の興味も風にまかせて、
風の吹くまま、気の向くまま。

5/14/2023, 3:06:42 PM