G14(3日に一度更新)

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146.『安らかな瞳』『星が溢れる』『怖がり』

 昔々、ある所に大変怖がりな男、通称『コワ造』がいました。

 どれほど怖がりかと言うと、犬が吠えれば「オオカミが来る」と騒ぎ立て、海を見れば「日本は沈没する!」と怯え、まんじゅうを見れば「まんじゅう怖い」と叫ぶ……
 とにかく病的なほどの怖がりでした。

 こんな様子ですから、近所の人々からは嫌われていました。
 何かあると騒ぎ、何もなくても騒ぐ。
 その度に安眠を妨害される村人たちは、多大な迷惑を被っていたのです。

 「怖がるのを辞めて静かにして欲しい」と、話し合いを持たれていた時期もありまたが、言葉だけで恐怖を克服できれば苦労はしない。
 その後もコワ造は突拍子もない絶叫は止まらず、もはや人々は我慢の限界でした……


 ある日のこと、村人たちは集会所に集まりました。
 議題は言うまでもなく男の処遇についてですが、既に結論は決まっていました。

「もう限界だ。
 あいつを村から追い出そう」
 満場一致でした。

 そうと決まれば、あとは追い出すだけ。
 ですが、それが問題でした。

「そもそも、なぜコワ造はあの家に住み続けているのだ?
 あれほど臆病なら、家を捨てて逃げ出してもよさそうなものだが……」
 これには誰もが首を傾げましたが、一人の男が手を挙げました。

「以前アイツから聞いたんだが、家にいるととても落ち着くんだそうだ。
 外は怖いものだらけだが、あの家はアイツにとって聖域、安住の地なんだろうよ」
 男がそう言うと、村のリーダーは頷きました。
「なるほどな。
 ならば方法は簡単だ。
 ヤツの家を『怖いもの』であふれさせてやろうではないか!」
 方針は決まりました。

 『怖がりのコワ造をもっと怖がらせる』
 村人たちは各々の準備のため、足早にそれぞれの家へと戻りました。


 その日の晩、村人たちはお化けの格好をして、コワ造の家の前に集まっていました。
 この姿でコワ造の家に押し入り、腰を抜かすほど怖がらせようという魂胆でした。

「早く行こう。
 こんなに星がよく見える夜は、『星が溢れる』と言って騒ぎ出してもおかしくない」
 その言葉を合図に、村人たちはコワ造の家に押し入りました。
「うぎゃああああ!!!」
 そして家中に、叫び声が響き渡りました。
 驚かせる側だったはずの、村人たちの叫び声でした。

「うぎゃあ」「ひいいいい」「お助け!?」
 ある者は泣き始め、ある者は逃げ出し、ある者は失禁しました。
 そして腰を抜かして動けない村長が、震える声で呟きました。
「なんだ、これは……」
 そこには想像を絶する光景が広がっていました。

 壁一面に飛び散ったドス黒い血、床には打ち捨てられた無数のガイコツ、窓にくっきりと残っている血の手形。
 そして天井には、こちらを呪い殺さんとばかりに睨んでくる顔の形をした染み……
 そこは紛れもない幽霊屋敷でした。
 何も知らないでやってきた村人たちは、心の準備もなくその惨状を目にし、ただ怯えるばかりでした。

「何の騒ぎだ」
 家の奥から、のっそりと男が姿を現しました。
 コワ造です。

 ですがコワ造は、これほど凄惨なものに囲まれているというのに、全く怖がる様子がなく、それどころか見たことがないくらい穏やかな顔でした。
 それを見た村長は驚愕し、コワ造を問い質します。

「お、お主……
 これが怖くないのか!?
 怖がりと言っていたのは嘘だったのか?」
 村長が叫ぶと、コワ造は安らかな瞳で村人たちを眺めながら言いました

「いいや、怖いとも。
 怖くて怖くて怖すぎて……

 ――一周回って、逆に落ち着くんだ」

3/21/2026, 10:20:06 AM