「どうすれば、サンタさんに手紙が届きますか?」
母親の見舞いに来た少年が、帰りがけに私に聞いた。
「それなら、僕はサンタと知り合いだから、手紙は僕が預かって、彼に渡してあげましょう」
少年が去った後、私は医局で手紙を読んだ。
「サンタさんへ
お母さんの、手じゅつにひつような、おかねをください。
ぼくのお母さんは、びょうきで、入いんしています。びょういんのせんせいは、お母さんは手じゅつをすれば、またげんきになるといいます。でも、ぼくのうちには、お父さんがいなくて、手じゅつにひつような、おかねがたりません。なので、ぼくは、お母さんの、手じゅつのおかねがほしいです。おねがいします。
かわりに、ぼくのたからものをあげます。お母さんが、ぼくのためにつくってくれた、オレンジいろのマフラーです。まくらもとにおいておくので、どうかもっていってください。
サンタさんも、ひとりでこどもたちのいえをまわるのは、たいへんだとおもいますが、このマフラーがあれば、さむくないとおもいます。がんばって、こどもたちにプレゼントをとどけてください。」
後日。
私は、長く厳しい手術を終えたその足で、待たせていた少年のもとへ向かった。
「メリークリスマス。昨日、サンタは来ましたか?」
オレンジ色のマフラーを巻いた少年は、目に涙を溜めて首を横に振った。
「ああ、やっぱり。実は、僕のところにこんなものが。封筒に書かれているのは、君の名前ですね。きっと、サンタはあわてんぼうだから、配る先を間違えたのでしょう。
さあ、読んでごらんなさい。」
少年が手紙を読み終えるのを待って、私は言った。
「行きなさい。お母さんが、君が来るのを待っていますよ。」
少年は、母親のいる病室へと一目散に駆けていった。
「少年へ。
知り合いから手渡された、君からの手紙を読みました。そして、すぐに君へのプレゼントの準備にとりかかろうと思いましたが、ひとつ、大変な問題がありました。それは、君からのプレゼントが、君の望むものに対してあまりにも高価な、価値のあるものだということです。
もし、君からの手紙をあの医師に見せたなら、彼はきっとこう言うでしょう。
『なんてことだ!このマフラーは、手術費用よりもずっと、大変に価値のあるものではないか!』
このように、君の宝物は、何にも変えられないほどの価値を持つものです。そして、それは君のためにあるものですから、そのマフラーは、ぜひとも、君のもとになければならないのです。それに、私には立派な髭がありますから、君のマフラーは、私ではきっと持て余してしまうでしょう。君の心遣いは本当に、とても嬉しく思いますが。
君の宝物をもらうかわりに、ぜひとも君に約束してほしいことがあります。
お母さんが元気になったら、君は、毎日学校に行き、よく勉強して、友達とも仲良くしなくてはいけません。大きくなったら、お父さんの分までお母さんを助けて、二人で仲良く暮らさなくてはいけません。そうして、お母さんを安心させてあげなさい。
君たち二人の幸せを、心から願っています。
サンタより」
(宝物)
11/21/2023, 10:46:33 AM