かたいなか

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葉っぱを燃やすか、燃えるような赤の葉っぱか、
それが問題だと言わんばかりのお題です。
ただ、このアカウントの過去投稿分、8月3日付近のおはなしに、ピンポイントで「葉月牛」なるブランド和牛が登場しておりまして。
丁度良いので、このジャパニーズ和牛ビーフを、
ボン!フランベ。燃やしてゆきましょう。

最近最近のおはなしです。都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
そのうち末っ子の子狐は、美味しい物が大好き!
今年の8月、雪国出身の参拝者さんの里帰りに、数泊数日で同行したその先で、
葉月牛なるブランド和牛の、和牛串を知りました。

葉月牛は、個人ブランドの少数和牛。
子狐が住む東京に出荷されることはなく、その地域だけで消費される、放牧の雪国和牛。
寒暖差多い雪国で、のびのび過ごし、肉の旨味を凝縮した和牛の牛串は、子狐を魅了しました。

そんな葉月牛を、たまたま子狐のおばあちゃんが稲荷神社の宿坊利用者の晩ご飯用に仕入れまして、
利用予定者がインフルエンザで予約をドタキャン!
「本当にごめんなさい」と、素直にキャンセル料を一括で、素早く、キッチリ、支払ったのでした。

しゃーないのです。
そいつの職場は数日前、熱が下がったばかりの従業員が、マスク無しで仕事をしておったのです。
これは、どうにもならんのです。

で、その利用予定者に振る舞われる予定だった葉月牛を、どうしたかといいますと。
そうです。今回のお題は「燃える葉」です。
フランベして、「燃える葉月牛」にしたのです。

「フランベですか。分かりました」
仕入れた葉月牛を消費するため、おばあちゃん狐が昔仕事をしていた職場の、遠い遠い後輩が、
問答無用で、ひとり、呼び出されました。
「まぁ、やるだけ、やってみます」

拒否権ナシです。無給です。高級和牛を一緒に食えるだけ、ヨシとしろ、とのお達しです。
おばあちゃん狐、後輩づかいが荒いですね。

じゅーじゅー、じゅーじゅー。
フランベに向かって葉月牛のブロックが、フライパンの上で適切に、温度を上げてゆきます。
じゅーじゅー、じゅーじゅー。
フライパンが十分に熱せられて、葉月牛もそろそろ仕上げ。そこにブランデーが注がれます。

さぁ、今こそお題回収。
おばあちゃん狐とおじいちゃん狐と、お母さん狐にお父さん狐、もちろん子狐も見守る中で、
ブランデーの入ったフライパンが、
さっと、傾けられました。

ボン! 一気に、一瞬、オレンジの炎が爆発。
それから先は静かな火の揺らめきが、葉月牛のブロックを包みました。

じゅーじゅー、じゅーじゅー。
燃える葉月牛と一緒に、良い香りが漂います。
じゅーじゅー、じゅーじゅー。
燃える葉月牛はゆっくり、良い香りをまといます。

「ふらんべ!ふらんべ!」
コンコン子狐は、燃える葉月牛を見るのも、そもそもフランベ自体を見るのも、はじめて。
覚えたての言葉を叫んで、大興奮です。
お目々をキラキラさせる子狐の目の前で、おばあちゃん狐のいわば後輩が、すっ、スッ。
燃える葉月牛から火が消えたのを見計らって、
ブロックを、切り分けました。

「どうぞ。見様見真似の、フランベステーキです」

子狐の前にも、芳醇な大人の香りをまとった和牛ステーキが、付け合せと一緒に供されます。
「ふらんべ!ふらんべ!」
当分、おそらく数時間、子狐のトレンドワードはフランベで固定されることでしょう。

特製のグレービーソースを添えて、一口サイズに切ってもらって、幸福な顔していただきます。
燃える葉月牛ステーキが、子狐の適温まで冷めたら、もぐもぐ、ちゃむちゃむ。
子狐のおなかに、収容されました。
燃える葉月牛のおはなしでした。 おしまい。

10/7/2025, 6:28:10 AM