ミミッキュ

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"好きな色"

「本当に良かったのか?俺まで同行しちまって」
 本屋の前で、隣を歩く飛彩に問いかける。
 オペを終わらせ医院に帰ろうとした所、偶然本屋に向かおうとしていた飛彩と出くわした。
 休日だからか、少しラフな格好をした飛彩を久しぶりに見て顔が熱くなった。
 見惚れていると「帰る所なら、一緒に行こう」と誘われて、それらしい断る理由が見つからなかったのでそのまま着いてきた。
「お前に教わった本以外に、良い本があったら教えて欲しい」
 小説でも医学書でも、そう微笑む顔に胸が、トクン、と高鳴る。
「だがその前に栞を見たい。だからまずは雑貨の棚から」
「わ、分かった」
 そうして本屋に入り、雑貨コーナーの栞が置いてある棚の前に立つ。
「前来た時よりも種類増えてんな」
 横を見ると、数多の栞を前に悩む飛彩の横顔があった。
「どれにするか……」
 そう呟く声も凛々しく、かっこいい。
「どれが良いと思う?」
 不意にこちらを向いて話しを振ってきた。驚いて肩が跳ねる。
「え、えぇ……っと」
 改めて棚に並ぶ栞を見る。
 色とりどりで素材や模様、デザインまでも様々で俺まで悩んでしまい、パッと出てこない。
「じゃあ、お前の好きな色で選んだらどうだ?」
 そう提案をするが、すぐ後「あっ」と声を漏らす。
──けど、飛彩に《好きな色》という概念があるかどうか分からない。余計悩ませる事になったかもしれない。
 ちらりと横を見ると、「なるほど」と声を漏らしながら顎に指を当てていた。
「なら、これにしよう」
 そう言って一つの栞を手に取った。
 白地の栞に水色と黄緑色の水彩絵の具が垂れたようなデザインの、今の季節にピッタリなデザインの栞だ。
「水色なら他にもあんぞ?」
 なんでそれ?、と指しながら問う。
 水色はブレイブの主色だ。《好きな色》でなくとも身近な色として手に取りやすい色だろう。
 だが何故黄緑色も使われている栞を手に取ったのか分からない。
「黄緑色はお前の色だから」
 そう言われ、はたと気付いた。
 黄緑色は俺──スナイプの主色。自身の色と俺の色は相性が良く、涼し気なコントラストだから今の季節によく見られる色の組み合わせだ。
 だが飛彩が手の中の栞を選んだ理由はそれでは無い。
「俺とお前の色が使われている物を見ると、ふと気持ちが穏やかになるからだ」
 そう微笑みながら栞を見せてくる。
「……そーかよ。め、目当ての見つけたんなら、早く本見に行くぞ」
 恥ずかしくなり、その場から離れるよう足早にこの前教えた本が置いているであろう新刊コーナーに向かう。
「分かった。だから置いていくな」
 小さく笑い声を漏らしながら、俺の後を着いてきた。
「おら、これだ」
 目当ての本を手に取って、飛彩に差し出す。追いついた飛彩がそれを受け取り「ありがとう」と一言礼を言う。
「他見て回るか?」
「あぁ。だが、あまり大我を独占しているとハナが痺れを切らして鳴き喚いてしまうから、ゆっくりとは回れんな」
「うっ……」
 独占、という単語に思わず反応して声が漏れてしまった。
「……なら早く回んぞ」
「そうだな」
 飛彩の返事を聞き、新刊コーナーから離れて別の棚へと向かった。

6/21/2024, 12:40:48 PM