#36 梅雨
「梅雨は、一つの季節としても数えられるんだ」
「そうなの?春夏秋冬、梅雨?ってこと?」
疑問符だらけの私の返答に、呆れもせず話を続ける彼。
「梅雨は春でもなく夏でもない感じがするだろ?」
「確かに」
「梅雨は東アジアで見られる雨季で、しかしその雨量や降り方は地域によって異なる」
「つまり…ひとくちに梅雨と言っても、同じイメージを抱いているとは限らない、ってこと?」
「まあ、そういうことだ」
「ふぅん…」
窓に目を向けた。
折しも今日は梅雨を思わせるような雨。
ただ、今そう感じるのは自分だけかもしれない。
ぼんやりと感傷に浸っていると、ん、んっと下手くそな咳払いのような音が聞こえてきた。
「確かに、君と僕は出身地が離れている。梅雨のイメージも当然違うだろう。だが、一緒になってもう長い。これからもここに住むだろう。それなら、きっと梅雨のイメージも一致していくようになる。そう思わないか?」
視線を戻すと、決まり悪そうな彼と目が合った。
彼との、これからの年月を思う。
「…じゃあ、紫陽花見たい、青いの」
「よし。それなら、あの大きい傘を出すか」
そろそろ近くの紫陽花が咲き並んでいるはずだ、と彼が立ち上がった。
ちらりと窓の外に目を向けた。
心なしか先ほどより明るくなっている気がした。
6/1/2023, 11:41:04 PM