どれだけ待っても、父は帰ってこなかった。
晩夏の夕風を背に受けながら、改札前で独り。
ゲートル巻きの脚を見つける度に顔を上げて、父ではないと判ると俯いて、またゲートルを探す。
物悲しいヒグラシの鳴き声も聞こえなくなって、赤トンボが群れて飛ぶようになっても、父は帰ってこなかった。
遠い南の島で父は死んだと聞かされた。
それから、あっという間に時が経ち、家庭に仕事にと忙しない日々を送っていた、ある日の夕方。
何とはなしに覗いた鏡の中に、父をみた。
テーマ「遠い日の記憶」
7/18/2023, 5:16:43 AM