暁野スミレ

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『腐る』 テーマ:みかん

 腐ったみかん、という言葉がある。

 段ボール詰めの、大量のみかん。あの中の一個でも腐ってると、周りもどんどん腐っていく。
 だから早めに捨てましょう。そういうこと。

「なら、周りがみーんな腐ってたとしたら?
 爪弾きにされるのは、むしろ綺麗なみかんの方だよね?」

 放課後。部活を抜け出して友達とマック。
 これは青春でも何でもない。無様な逃亡兵の弔い会なのだ。

「相変わらず小難しい。
 分かるのは、今のがアンタなりの強がりってことだけ」
「……そうだよ」

 コーラにブッ刺したストローを噛む。
 ふやけた段ボール味のする紙ストローが、惨めな気持ちを煽る。

「年三回発行の部誌、今年は無くすって」
「は。じゃあアンタら文芸部は何するわけ?」
「知らなぁい。一生オタクトークしてるんじゃん?」

 言いながら、ため息を抑えられなかった。
 去年入部した文芸部は、思ってたような場所ではなく。
 執筆だの読書だの、そんな感じの話が出来ればと期待していた気持ちは、一年の間にすっかり掻き消された。

「アニメ鑑賞会は出来るのに部誌の発行は出来ないんですか、って気持ち」
「凄いね」

 せせら笑う友達の顔は、とても見られなかった。
 何度も話は持ちかけた。作品は書くべきじゃないですか。せめて部誌くらいは発行しましょうよ。そんなことを。
 馬鹿馬鹿しい。

「腐ったみかんの話だけどさ」

 友達が口を開く。

「こっちからすれば、誰が腐ってるのか判断しようないケド。
 結局一緒に居たら、全部腐るんじゃないの」
「え。……そしたらどうなんの?」
「サークルクラッシュ」
「それ、どのみち私が悪くなるやつじゃん」

 抗議する私の目線をかわして、友達はあっさり「そうだよ」と答えた。
 あーあ、サークルクラッシャーってやつになるんだ私。笑えないな。

「だからさ、もう部活辞めたら?」

 友達の言葉はあまりにシンプルで、だけど理解に時間を要した。

「辞めるの? 私が先に?」
「そ。よく言うじゃん?
 しんどいと思ったら無理せず逃げろ、って」
「なんかそれ、負けた感じがしてヤダ」

 勢いのままテーブルに突っ伏す。油がほっぺに付いちゃって、すぐに後悔した。

「勝ち負けなんてないから。
 アンタだって分かってんでしょ、本当は」

 はいはい分かってる。文芸部と私の関係は勝ち負けでも、段ボール詰めのみかんでもない。
 言うなれば水と油。混ざり合わない人種。

「分かってるけどねえ」

 未練がましくぼやく。うだうだ。ぐだぐだ。
 私はやっぱり、腐ったみかん。

2024.12.29

12/29/2024, 11:57:31 AM