スリル
恐怖や驚き、張り詰める緊張感。
私はそういった類のものが嫌いだ。至って平凡で、平坦な道をぼんやり歩いていきたい。今更それを変えたいと思うこともないし、変える必要もないと思う。
「迷ったら困難な道を選べ」とか、「自分の好きな道を選べ」とか、「安全な道が正しいとは限らない」とか。世間はうるさい。安全であることが一番に決まっている。
心の中でそう思っていても、危険な道を選ぶ人々が輝いて見えるのだ。
私のような植物人間に比べて、彼らはすごく楽しそうだった。羨ましい。
頭の中で凝り固まった固定概念のようなものは中々ほぐれなくて、足が動かない。また崖に背を向けて、安全な道を歩き出す。
だって、あんな高いところから転げ落ちたら。周りに何を馬鹿なことしてるんだって後ろ指さされたら。
もう一度振り向いて、私の方を見向きもせず、自分らの成すべきことだけを据える彼らを見て思った。そういう第三者からの感想を覆すことも、彼らの美徳に入るのだろう。スリルとはそういうものなのだと、彼らの背中は語っていた。
彼らの顔は、いきいきしている。
11/12/2024, 10:11:12 AM