#10 鳥のように
幼い頃から父親が苦手だった。
いつも真面目で厳しくて、
絵に書いたような頑固親父だった。
でも、そんな苦手だった父も
「結婚する」と伝えたら一緒に泣いて喜んでくれた。
「そんな顔するんだ……」
ふとそんなことを思ってしまった。
両親に感謝を伝えたくて、
結婚式を挙げることにした。
決めることがいっぱいで大変だったけど
あっという間に過ぎていった。
そして
先月、父が病で亡くなった。
「なんで今なの……」
涙とともにそんな言葉がこぼれ落ちた。
そのとき、母が言った。
「これ、お父さんからあんたへって」
それは結婚式の費用だった。
「お父さんね、あんたの結婚式を私よりも楽しみにしてたのよ?『この鳥のようなモーニングを着て一緒に歩くんだ』って近所の山田さんにまで自慢してて……」
そんな父の姿を私は想像出来なかった。
______
そして結婚式当日、桜が満開に咲くこの季節。
天気がとても良かった。
いざ、入場のとき。
ミスしないかな。大丈夫かな。
途中で泣いちゃってメイク崩れないかな。
いろいろな心配が直前になって込み上げてくる。
「それでは入場になります」
スタッフの声で
目の前の大きな扉がゆっくりと開いた。
席を見ると
列席してくれた友人家族の顔が目に入る。
「あぁ、なんだろうこの気持ち……」
不思議な感覚でバージンロードに足を進め始める。
すると私の頭上を、
しっぽの長い1羽のツバメが飛んでいった。
そして、式会場から歓声や拍手が沸き起こった。
「お父さん……」
最初から涙が止まらなくなった。
ありがとう……。
しぐれ
8/21/2024, 2:37:30 PM