ポツポツと浮かぶ星に白い街灯。ネオンが輝く煌びやかな風景でもなければ、宝石を散りばめたように美しい星空でもない。所謂、閑静な住宅街。その先には天に向かって伸びる高層ビルが立ち並ぶ。都会の片隅から覗く味気ない景色をアパートのベランダから眺め私はグラスを傾けた。
氷で冷えたコーヒーが喉を潤す。含まれたカフェインが訪れる睡魔を撃退してくれるだろう。そう期待を込めて私はただただグラスを傾ける。だけど虚しいかな、味はしなかった。
氷だけ残ったグラスを置くと私は近くにあったコンビニのビニール袋を漁った。中にはタバコとライターが入っている。箱を開けてタバコを一本取り出すとライターで火をつけた。タバコの先端が燃え、ふわりと白煙がくねりその後筋の様に立ち昇る。その煙を逃さぬように私はタバコを吸い込んだ。
苦い空気が肺に流れ込んで私は思わず咳き込んだ。なんだってこんな苦い物を好んで吸うのか、理解ができないと思った。
銘柄は知らない。ただあの人が同じ様な物を吸っていたので選んだだけだ。たったそれだけ。
立ち昇り黒檀の空に溶けていく煙を視界の端にとどめてから私はそっと瞳を閉じた。
視界を覆う暗闇の中、思い出すのはあの人の浮かれた声と喜色を含んだ笑み。どうしてかその笑みが腹立たしくて、恨めしくて、仕方がない。
再度タバコを吸い込む。やっぱり苦くて身体が受け付けない。咳き込む度に目尻に浮かぶ涙は感情の発露か、それとも生理的現象か。私には分からなかった。
好きじゃないのに
3/26/2023, 2:12:20 AM