白糸馨月

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お題『不完全な僕』

 「できない」という状態が嫌な人間だった。というか、今でもそうだ。
 テストの点数がすこしでも悪いと悔しいから勉強を頑張った。そのおかげで東大に入ることが出来た。周囲には俺よりも頭が良い人間がゴロゴロいたけど、どうにか食らいついたつもりだ。
 運動能力が劣っていると、周囲からバカにされがちだと気がついてから、なにごともできるようになるまで何回も練習した。小学校から大学卒業するまでスポーツを続けたけど、正直好きではない。
 周囲からなめられないためにクラスの目立つグループを見て、そのビジュアルを真似するのみならず、そのグループに所属して学校生活を過ごしやすくした。正直、一緒にいて疲れるし不快に思うことが多かったので社会人になってから疎遠になっている。
 会社も外資系で高い年収が約束されているところに入って、「仕事が出来ないやつは容赦なくクビを切られる」という環境で今も食らいついているつもりだ。
 そういう人生を送っている俺に周囲は、

「完璧じゃん」

 という言葉を投げかけてくる。順風満帆で挫折を知らない、そういう風に見えてるんだろう。
 だが、俺自身完璧でもなんでもない。生きててずっと心に穴が空いたままだし、まだなにか埋められるはずだと常々思ってしまう。
 彼女と同棲している部屋にいる時が唯一心休まる時間だ。彼女は俺の素を受け入れてくれている唯一の存在だ。人にかくれてやっている趣味のFPSで知り合った。今の彼女は、自然体でいられるから楽だ。
 実はゲームが下手でいつまで経っても上手くならず、いわゆる『姫プ』している立場に甘んじていることなど誰も知らないだろう。そういうプレイスタイルなので彼女と、もう一人俺のプレイスタイルでもなにも言わない菩薩みたいな人としかチームを組んだことがない。最低限、レベルが同じくらいなだけだ。

「ひーめ、おしごと頑張ってるから今日もゲームでよちよちしてあげる」

 なんてふざけた調子で言われて、ムッとした顔を作るけど本心はそうやってイジり交じりに扱ってくれるのが嬉しくて、さっそく自分のPCの前に座ってFPSにログインする。
 ここでは頑張る必要がない。というか、そういう立場を用意してくれているのがうれしいし、ダメな俺を受け入れてくれる場所があることがありがたいと思っている。
 あいも変わらずよく死ぬ俺のキャラクターを画面で見ながら、俺達はボイスで気楽に笑い合いながらプレイをし続けた。

9/1/2024, 2:03:29 AM