ももく

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 すべてのひとは、心に鬼を住まわせているという。
 鬼はふとした時に顔を出し、ひとを惑わせ、悪しき方向に誘導する。

 鬼を飼いならし、鬼に何を囁かれても、それに抗う術を身につけること。
 何事にも動じず、常に悠然と構える。その姿を民に見せ続ける。それが、上に立つもののさだめである。
 父に、何度も言い聞かされていたことだ。

 心がけていたつもりではあった。

 しかし、侵略者を前に床に伏す父を見た瞬間、堰が切れて水が溢れるように、激情に身を投じてしまった。

 これが、鬼か。鬼に支配されるということなのか。

 師が止めてくれなかったら、鬼に身を窶(やつ)した自身は、動くものすべてに襲いかかり、果ては侵略者に串刺しにされるまでそれを辞めなかっただろう。

 ぞっとする。

 けして、けっして、他人の死を望んでいるわけではない。誰かを傷つけていいなんて、思っていない。
 望んでいるわけではないのに、己の行動は一直線だった。迷いも躊躇もなかった。

 鬼を飼い慣らす? そんなことできるのだろうか。
 また、深い感情を覚えれば、鬼はその首をもたげるのではないか。

 恐怖を覚える。
 そしてそれ自体も恐ろしい。

 恐ろしくて父の弔いも、悼むことすらできずにいる。



『だから、一人でいたい』

7/31/2024, 10:34:56 AM