紙ふうせん

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私、森村加奈子は死んだ。

ちゃんと信号が青になるのを確かめてから
横断歩道を渡っていたのに、スマホを見ながら運転していたトラックに轢かれて死んだのだ。

まだ、花の16才なのに。
片思いだけど、好きな人もいるのに。

世の中、あまりにも無情だ。

お葬式には、高校のクラスの子達がみんな来てくれた。
高校2年の春だから、仲の良い子もたくさんいる。
私はどちらかというと、活発な方だったから男子の友達もたくさんいる。

あ、松田君だ。五十音順で席が並んでいるので私の斜め前の席だ。
びっくりするほど町田君泣いている!

アハハ、ほら、女子が引いてるよ。

あ!私の片思い中の中川君だ!
沈んだ顔をして唇を噛み締めている。
何を思ってくれているんだろう。

もう、二度と中川君と話せないんだ、と思ったら急に悲しくなった。

ー彼女とか作るんだろうなー

ただのクラスメイトでいいから、もっと中川君と話したかった。
けっこう、いい感じでよく話してたんだけれどな。



日常が否が応でも戻ってくる。
私の机の上には、毎週誰かがきれいなお花を花瓶に差して置いておいてくれる。

きっと、優子じゃないかな?
彼女とは特に仲が良かったから。

あれ?ところで私は今、意識だけなんだよね?このまま意識も消えていくのかな。

それは嫌だな。

だって、まだ16才だよ。
嫌だ、嫌だ、このまま消えちゃうなんて嫌だ〜!!



え?どうなったの?これ。
私、ヒラヒラしてるよ!
あ!そうだ!お店のショーウインドーにうつしてみよう。

ウソ!!私、モンシロチョウになっている!!

わ〜!飛べるんだ!!
おっとと、まだうまく飛べないな〜。
……うん、だいぶコツが分かってきた!

あ〜、お花の香りがする。どこだろう。
庭?あれ?ここは学校の庭だ。私の通っていた高校の庭だ!

中庭があって、そこはタンポポやシロツメグサ、アカツメグサ、芝桜などたくさんの小さなお花が咲いていて、そこでお昼を食べたり、休憩する生徒がたくさんいる。

おひさまが真上だったので、お昼休みだといいな、と思いながらヒラヒラ飛んでいたら、ちょうどお昼休みだった。

町田君が見えた!もしかしたら、と思って
飛んでいくと、なんと!中川君がいた!!

そばに行こうと一生懸命飛んでるけど、何しろ小さなモンシロチョウだ。
なかなか進まない。

焦りながら、やっと中川君のそばに行けた!

中川君!私だよ!森村加奈子だよ〜!
中川君の肩のあたりをヒラヒラ飛び回る。

「中川、お前の周りにさっきからこのモンシロチョウ、飛び回ってるぞ」「町田の辺りにもヒラヒラしてるよ」
「案外、森村の生まれ変わりだったりしてな」ふたりで笑っている。

え?どういう事?
中川君が笑いながらからかうように言葉を続ける。
「だって、町田、森村の事、好きだったろ?毎週、早く教室に来て森村の机の上の花を替えてるもんな」

町田君は赤くなって、バカ!誰にも言うなよ!と言っている。

なんて事だ!!あのお花は町田君だったんだ!ありがとうね、町田君。

うん?町田君が私のことを好きだった?!
え〜!!中川君じゃなくて?!

予鈴が鳴った。

中川君が笑いながら「バイバイ、森村かもしれないモンシロチョウさん」と手をヒラヒラ振って、町田君と教室に戻ってしまった。

なになに?この展開!!
私は町田君は楽しい男子、とだけ思っていて、いつも中川君を見ていたのに。

ー死んでもうまくいかないなんてー

でも、町田君、いつもきれいなお花をありがとうね。

私はいつまでモンシロチョウでいられるかわからないけれど、あちこち今まで見れなかった物を見てみるよ。

さようなら、中川君、町田君、クラスのみんな。

あっちの方にお花があるんだ。いい香りがする。

私はヒラヒラと春の暖かい陽射しの中、いい香りのする方に飛んでいった。

5/10/2023, 12:23:53 PM