どこまでも続く青い空 (10.24)
「上手ですね」
テンプレの台詞にため息をつく。ひとつ深呼吸して
「彼女の『英雄』はどうですか?」
と尋ねた。先生の顔はちょっと困った風に歪んで、しかし嬉しそうに答えた。
「表現はいい。勇ましさが目に見えるようだ。だが鍵盤のタッチが粗い——-あぁ、君の機械的繊細さが欲しいですね」
機械的、ね。
ピアノも無理か、とさして悔しがるでもなく思う。
「上手」「すごい」「賢い」「天才」
聞き飽きたうすっぺらい感想。
理由は明白、自分はいつも成長しないから。何をするにもどんよりと厚い雲が心を押しつぶして、夢中になれる光を見つけられないから。
ありがとうございました、と一礼して出た教室の外には、いつもの少女がいた。
「タッチが粗いってさ」
「もちろん練習してきたよ!指先がちょっと裂けちゃったけど」
絆創膏だらけの指先を見て震えた。あぁ、狂ってる。
だが彼女の空はきっと、どこまでも青く希望で満ちているのだろう。
なんて羨ましい。なんて清々しい笑顔。
ふと、彼女に恋したら夢中になれるかな。と血迷った事を考えて嘲った。
10/24/2023, 9:59:24 AM