いす

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手を差し出す。彼女が応えてくれる。君はその瞬間にほとんど充分になる。ダンスホールに流れている音楽は君の趣味に合わない。まっぴらだうんざりだと君はタップを刻む。彼女が笑っている。あなたと踊れるなんて夢のようだわ。間違ってない?ねえ、私初めてなの。その手に掴んだ彼女が君のほんとうになっていく。夢から醒めてもその充足を味わい続けて君はベッドを下りる。刻まれるタップに溢れた笑みを忘れるな。踊れ踊れ。踏みしめろ、軽やかに。彼女の不在に耐えられるように。

10/4/2023, 1:23:53 PM