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お題:喪失感

敷地に入った途端、一気に音楽と人のざわめきが大きくなる。普段浴びない強い光に酔ったのか、少し視界がふらついた。やぐらから周りへと吊るされた提灯が、辺りを橙色に染めている。追い討ちのように電飾が照っており、ここだけ別世界のような明るさだった。

地元の神社での夏祭り。敷地自体が小さいから、やぐらと店舗はかなり小規模だ。私は親のお使いで焼きそばと焼き鳥を買いに来ただけ。その後は盆踊りを少し観て帰るつもりだった。

私の腰までの背丈しかない子達が何度も横を通り過ぎてゆく。小さい頭を見下ろしながら、両親に連れて来られた記憶を薄く思い出した。
そわそわしていた私を見て親は「行ってきたら?」と背中を押し、一緒に盆踊りの輪の中へ飛び込んだ。同世代の子達と大人に囲まれて踊りながら、外で眺めているだけの人に「入った方が楽しいのに」と思ってたっけ。

お使いを済ませ、ラムネを買うか迷って結局買わなかった。やぐらから少し離れた場所に佇んで、輪の中で笑顔にはしゃぐ人々を眺めていた。一曲終わって拍手が響くと、私は鳥居の方向へ足を進めた。

鳥居を潜って真っ直ぐ歩き続ければ、背後のざわめきが段々遠退く。あっちが眩しくて騒がしいだけなのに、世界から光と音が失われてゆくような喪失感を覚えた。

右に曲がる直前で道を振り返ると、鳥居の向こう側に浮世離れした橙色の灯りが見える。私は自然とスマホをかざし、シャッターボタンを押していた。
手の内の機械に写った画像をみて、なぜか胸が締め付けられた。

9/10/2023, 1:43:43 PM