のねむ

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「待ってたよ。ずっと」

夜はまだ起きている。だから、朝はまだ起きない。
薄暗い海の中で、君は月の光だけに照らされてぼんやりと、しかし力強く立っている。

「はは、遅かったか?」

ふわりと海の匂いを巻き込んで、風が吹く。
悪いなんて少しも思ってなさそうな顔で君が笑ったから、何となく許してしまいたくなった。
君の悪い癖と私の甘さの重なりは、お互いの凹んだ部分を埋めるように、心地良さへと変化する。

「どうせまた、賭け事でもしていたんでしょう?」

黒いズボンの後ろポケットに、くしゃくしゃになった新聞が入っている。
君の趣味は、確か馬だっただろう、そう呟くと、あちゃーやっちまった! と、後ろポケットに手をやり新聞を引っ張り出した。

「勝敗は?」

ふ、と全てが闇に包まれる。
月が顔を隠してしまったみたいで、君の表情が上手く読み取れなくなってしまった。

「面白いくらいの惨敗だ」

ぱしゃっ
遠くの方で魚が跳ねた。

「……そう」

ゆっくりと、月が顔を出し、君の広げた新聞に光を注いだ。
確かに、それは面白いくらいの惨敗かもしれない。

見開き一ページ、大きく載せられた無機質な文字。
【桜の木の下で男性の遺体発見】


「見つけられるとは、思わなかったんだけどなぁ」

ぽつり、呟く。
君の吸い込まれるような暗い黒い瞳が、私を捕らえる。


「……なぁ、約束しただろ?」
「……嗚呼。そうだったねぇ」


酷く不安定な声だ。縋るようで、なのに手を取って救い上げて欲しいとは思っていない。
答えなど、求めてはいないのだろう。だけど、答える。

波の音に負けない様に、聞こえるように、声を出して。


「いつかまた会おうって、約束しただろ」
「うん、うん。そうだった筈だよ」


ひとつひとつ、何も間違いなどないのだと、肯定して安心させてあげるのだ。
赤子に話しかけるように、優しく。やさしく。


「俺は、約束を守れたか?」
「……それは、分からない」


約束、とは、いつから呪いになるのだろうか。
守れぬ約束など、最初から結ばなければ皆、無責任に幸せでいられるのに、

「……人は何故約束をするのだろうねぇ」

ざぷん、波が変な音を立てて泡を立てた。
それを二人して見て、何となく目を合わせたら、それが可笑しくて笑いが込み上げてきた。


くすくす、はは、二人の笑い声が薄暗い海に響く。
どうやらその声で、朝が起き始めたようだ。
それは、私達の終わりの合図でもある訳で、こうしちゃいられない、と呼吸を整える。



君が言う。

「もし来世があるなら、また会おう。約束だ」

「なんで今、約束をするのかなぁ」

「はは、悪い」

そう言う癖に、悪いなんて少しも思ってなさそうな顔で笑うから、何となく許してしまいたくなった。


「そりゃあさ、未来に期待したいから、だろ」


きっと何度繰り返しても、同じことをしてしまうんだろうな。
世界の終わりに君と、生きていた。



そんな気がしている。





─────────────────

それが、二人の約束。




約束は、呪いなのか、はたまた祝福なのか、願いなのか。
人によって変わってしまうことだけど、それが誰かの生きる理由になるんだろうなと思います。
義務になれば、辛いけれど、辛ければ辛いほど忘れられない物になる。
それが、酷く美しいなと思います。




久しぶりに書くと、難しいですね。本を読まなくなってしまったから、言葉が出なくなりました。
元々頭の回転が遅い上に、言葉の選び方や種類が最悪なのですが、本を読むと少しだけ上昇するんですよ。
影響されやすい体質ってのが、そんなとこにまでって感じですが、



浮上しない間に沢山ありました、けど、眠たいので今日はここで。

おやすみなさい。良い夢を。

6/7/2024, 5:43:20 PM