中宮雷火

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【初雪】

「お母さーん、今日って雪降ると思うー?」
私は窓に顔をくっつけて、外の様子をまじまじと見た。
「ここは岡山だからねー、
降るかどうか分かんないよ」
お母さんはキッチンで朝ごはんを作りながら答えた。
「今日こそは、降ってくれたら良いのになあ…」 

私が住む岡山は、「晴れの国」として有名だ。
なので、雪は滅多に降らない。
積雪なんか、10年に1度レベルだ。
だから、私は冬になると「雪よ、降ってくれ…!」と祈り続けるのだ。
それは近所に住む子たちも、きっと同じだろう。

ある日、起きると雪が積もっていた。
「お、お、お母さん、雪積もってる!」
私は珍しい光景に興奮した。
白い息で、窓が白くなる。
「お母さん、遊びに行ってくる!」
「気をつけるんだよー。滑らないようにね。」
マフラーと手袋を着けて勢いよく外に出ると、近所の子たちは雪合戦を始めようとしていた。
「ねえ、私も混ぜて」
「あ、ちょうど良かった。人数が足りなくて困ってたんだよ」
「一緒に遊ぼ!」
こうして、滅多に出来ない雪合戦をしたり、
雪でうさぎを作ったりした。

私は大学生になり、上京することにした。
私は楽しみで堪らなかった、
だって東京は岡山よりも雪がよく降るのだから。

11月になった。
空気がピンと張り詰めていて、冬の訪れを感じる。
寒いな、なんて思いながら信号が青になるのを待っていると、手に妙な冷たさを感じた。
上を向いて見ると、
雪が空から降っていた。
初雪だ。
初雪って、こんなに早いんだ。
私は目を輝かせた。
これが積もったなら、どんなに楽しいことが起こるだろうか。
私は今にも舞い上がりそうな気分だった。

「うわ、雪か。滑るから嫌なんだよなー。」
隣から声が聞こえた。
左を向くと、1組のカップルが話しているのが見えた。
「積もったら嫌だよね。歩きづらくなる。」
「電車止まったらヤバいんだけど。
明日、1限からなのに。」
右からも声がした。
「積もったら雪かきしないとじゃん。
ダルいわ。」
その時、私は理解した。
ああ、雪というのは、東京の人にとっては厄介な存在なのか。
私みたいに、目を輝かせる人は珍しいのか。
私は俯いた。
雪は、厄介。
厄介な存在。

信号が青になり、人が一斉に進みだした。
私も歩き出した。
雪なんかに、目もくれずに。

12/15/2024, 12:32:43 PM