かたいなか

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「4月8日『これからも、ずっと』翌日『誰よりも、ずっと』、3月13日『ずっと隣で』だった」
ずっとシリーズ第4弾かな。某所在住物書きは過去投稿分を辿りながら、ぽつり呟いた。
ずっと、ずっと、ずっと。今回のお題は4月8日、「これからも」のそれとペアになるように見えた。
では4月の過去投稿分をそのまま過去にして再投稿で即終了か――残念。物書きにはそれが難しい。

「『これからも』は、これまでずっと自分を追っかけ続けててきた粘着系元恋人の話題、
『誰よりも』は、これまでずっと誰より従業員を見続けてきた上司が部下に休暇を進めるハナシ、
『隣で』は、元恋人が職場に押しかけてからの話を、これまでずっと親しかった友人と振り返る、と」
別の視点とか切り口とかから、新しいハナシを書きたいのは山々だが、なにせ俺頭が固いからなぁ。
物書きは恒例にため息を吐き、スマホを見る。

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某アパートの一室に、藤森という雪国出身者がぼっちで暮らしておりまして、その部屋には、
これまでずっと職場でタッグを組んでた後輩と、
これまでずっとつるんできた親友と、
近所の稲荷神社に住まう不思議な子狐と、
前々職の図書館で正職員と期限付きの臨時職員の間柄だった今の友人くらいしか、
ほぼほぼ、訪問者がおりませんでした。

ある日、藤森の部屋に後輩が自主的に緊急搬送されてきて、要するに自律神経やら体調やらの不調でダルくて、朝からロクなものを食っていませんでした。
自身も30℃で弱り、35℃以上で溶ける藤森。理解されづらい後輩の不調は他人事ではありません。
当然のように、少しの食材諸費を受け取って、さっぱり豚バラの冷しゃぶサラダとヒンヤリ冷たい水出し緑茶、それから茹でた中華麺を水でしめて麺つゆで食べる冷やし麺などを出してやりました。

困ったとき、体が動かないときは、お互いさま。
藤森と藤森の後輩は、これまでずっと、そうやって互いの生活費を節約したり体調不良の日々を乗り切ったりしてきたのでした。

で、ここからが「これまでずっと」の物語。
ごはんを貰って元気を取り戻した後輩が、
日頃のお礼として、藤森にスティックタイプのインスタントなほうじ茶オレを数本、渡しました。

『私は日本茶にはミルクや砂糖は入れない』
藤森は優しく、でもしっかり、オレの数本を一旦押し返しました――お茶好きな藤森は日本茶が特に大好きで、ほうじ茶も勿論飲みますが、砂糖入りも、オレやラテも、経験したことがなかったのです。
『来客用にでもすれば良いよ』
まぁまぁ、おいしいから。後輩は返されたスティックを、更に渡し返しました。

自称捻くれ者ながら、実際は根っこが優しくてお人好しな藤森は、ここまでされると強く出られません。
後輩からインスタントのほうじ茶オレを受け取って、お前の謝意は無駄にしないよという意味で微笑んで、でも味を知らないものを客人に振る舞うのは藤森の信条に反するし好奇心もあったので、
これまでずっとオレなティーを飲んだことが無かった藤森、後輩が帰ってからこっそりと、
1本スティックを封切って、
マグカップなど出してきて、
タパパトポポトポポ。お湯を入れてみたのでした。

香りはほうじ茶だ。
藤森は温かいベージュ色の香りを、深く吸い込み、リラックスのため息で吐き出しました。
少し吹いて冷まして、再度香りを楽しんで、少しスプーンでかき混ぜて、こくり。
『うまい』
ホットミルクに、ほうじ茶の風味がある。
すっきりしたステビアの甘さとミルクのコク、なにより優しい温度が、藤森を癒やしました――

――「で、なんで、その、あの……」
後日、単純にヒマで藤森の部屋に遊びに来た後輩です。冷房きかせて涼しい部屋で、藤森がほっこり湯気たつマグカップに口をつけておりました。
なに飲んでんの。後輩が尋ねると、顔を上げた藤森がぷらり、いつぞや後輩が一飯のお礼にくれたほうじ茶オレのスティックを掲げたのでした。
「お前の言った通りだ。美味かった」
藤森は言いました。
「ただ、湯で溶かすよりホットミルクで溶かした方が、好みの味だったんでな」

「暑くないの?」
「氷で薄めたくない」
「ホットミルクで入れたほうじ茶オレ凍らせてオレに入れれば薄くならないじゃん。

……待って。なに先輩、その、『その手があった』とか、『そんな用途に使えるのか』って顔……」

7/13/2024, 3:57:57 AM