捨てないで。
そう言って泣いている姿に心底吐き気がした。
何を今更、そうやっていれば私がその気になるとでも?少し前まで、散々その感情に縋っていたのは私だったのに。
ピュアな彼に惹かれた。優しくて、彼の為ならどこへでも行ける気がした。だから、私もそう思って貰える様に振舞った。好かれたい一心で作った自分自身を演じたのに。
その結果がこれか。なんとまぁ、無様なもので。
それは、彼に思った?それとも自分に?どっちでもいい、兎にも角にもこんな場所には居たくない。
相手がどんな子なのかは知らないけれど、趣味の良いフレグランスは実に小賢しい。置いていても不思議では無いけれど、そもそも彼が匂いをあまり気にしないタイプだからね。
私に対する挑発だろうが、冷めてしまえば逆にありがたいものだった。彼への気持ちがこんな位で翻ってしまうのならば、彼は本物じゃなかった。本物の好きを私は抱けていなかったんだ。
あーあ、良かった。時間を無駄にせずに済んだね。良かったね。
時間ばかり取られて、捨てられてばかりの人生だと彼は言っていた。私はそうなるものかと思っていたけど、なるほど。
閉じ込めていた本音が、彼に好かれる為という檻から解き放たれてしまえば、滝水のように溢れ出す。
そういうすぐ情けなく本音を言うところ、嫌いだった。
最終的に前向きに考えるならまだしも、ずーっとぐずって、それも嫌だったんだよね。
理想と現実の区別がついてないところも、嫌いだった。
そうやって哀れな振りをして振る舞えば、なんだかんだで優しく許されて来たんだろうけど、やる事やってたら通用しないなんてこと誰だってわかるでしょ。
綺麗な言葉だけ吐いて、自分は汚い行動をします。綺麗な世界で受け止めてくださいって?無理無理。
何となく私を見下してたところも、嫌いだった。
対等に思ってなかったでしょ?後ろに着いてくるものだって思ってたのかな。あぁ、でもこれは私も悪いかも。だって嫌われたくないって初めに壁を作ってたのは私だったから。
あーあ、失敗したんだなぁ。
……なんだか、似た言葉を知っている。
お母さんがいつも私に言ってたや、失敗作だって。だから妹に手をかけるのは当たり前だって、自分が嫌だった言葉。
お母さんと同じことをしようとしてるんだ、私。
じゃあ、子供のように泣いている彼には、昔同じだった私が言って欲しかった言葉を口に出すべきかな。
君のお母さんになれなくてごめんね、って。
10/13/2023, 11:13:09 AM