チロ

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大きなお腹を抱えて、歩いた日々。
常にスイカを抱えているようだった。

毎晩の前駆陣痛に、布団の中で丸まり耐えた。
いつ抱けるのかと、心待ちにしていた。

片腕に点滴を付けられ、陣痛に声を出す。
「これで産む」と、案外冷静だった。
産まれたのに、聞こえない泣き声。
「泣いて!泣いて!」と分娩台の上で叫んだ。

小さな手、足。
薄い髪の毛。
柔い身体。

元気に育った。

ひと晩泣き続けた長女とは違い、夜はよく寝てくれる子。私も3時間を超えて寝てしまい、慌てて起きると次女の呼吸を確かめる毎日。

寝返り、ハイハイ、おすわり、ひとり立ち。

ママ追いも長女大好きなおかけで、負担が分散された。
姉追いされて困る長女が、なんとも優しく、3歳離れた次女の面倒を見てくれる。
長女はママ追いが酷くって、トイレの前でドンドンガチャガチャ。どこまででも付いてきて、ノイローゼになりかけたのに…妹の面倒を見れるまでに成長したんだね。


歩いて、走って、保育園入園。
保育園ってすごくて、驚くほど成長して帰ってくる。
いつの間にか、出来ることが増えていて、
ママがいなくても平気になっていた。
それは少し悲しいことのようで、でも仕事を終えて迎えに行った時の、満面の笑みはとても強くて安心出来るものだった。


たくさん風邪をひいて、仕事を休んだ。
たくさん、頭を下げた。

ヒールや派手で引っかかるアクセサリーは避けるようになった。自分の服にお金をかけず、子どものことをお金を使うようになった。


ある時、次女が風邪でけいれんを起こし、意識を失った。抱っこしていた手の中で、全身の力が抜け、3分程のけいれん。
すぐに救急車を呼んだ。

次女は病院へ着いてようやく意識を取り戻した。
朦朧としている中、焦点の合わない目線。
手の震えが止まらなかった。

産まれた日のことを思い出す。  

「泣いて、泣いて」

寝不足と疲れで「いい加減にして!泣かないで」と何度も思ったけど…真っ先にそのことが思い浮かんだ。

入院3日目で、ようやくご飯も食べられるようになり
座れるようになった。まだぐったりはしていたけど、座っている時間が少しづつ増えた。

生きていて、良かったと泣いた。


悪いことは続くもので、その数ヶ月後。
今度は長女がけいれんを起こした。
熱のないけいれん。
意識を失い呼吸が止まり、次女の時を思い出した。
数分で治まったその後は、普段と変わらない長女に会えた。



2度目のけいれんを起こし、
小児てんかんと診断された。


何度経験しても、なれることはなく、長女のけいれんが起こるたびに手が震える。
子どもが産まれて、生きている。
それが本当に奇跡なのだと思えた。

お風呂やプールで倒れて、溺死するかもしれない

階段や遊具で倒れて、転落するかもしれない

気の休まらない不安な日が続く。

けいれん発作が長く続き、止まらないかもしれない。

すぐに止まっても繰り返し、障害が残るかもしれない。


今日と同じ日々は、2度とこない。
だから、後悔しないようにしたいと、長年勤めた会社の正社員を辞めた。


少しでも子どもと居られるように、パートで転職した。


今まで見たことのない子どもたちを見れたのだから、
後悔はしていない。




どれもこれも、もうすでに、過ぎ去った日々…

明日はどんな日になるのだろう。


こうしている今も、もう一瞬で過ぎ去っていく。

3/9/2024, 5:20:56 PM