この街の鐘の音が聞こえる度に幼少期に夢の中で出会った彼を思い出す。
彼は私よりも頭1個分だけ背が高く、三つ編みを1本、しっぽのように垂らしている子だった。名前は聞いても「また今度会えた時に教えましょうね」とはぐらかされるのだ。
夢の中で出会う度に彼は色々なおとぎ話を聞かせてくれた。なんでも、絵本を読むのが好きなんだとか。後は歳の近い…血は繋がっていないらしいが、弟が1人いるらしい。そんなことまで教えてくれるのに肝心な名前を教えてくれない。
なのに彼は私の名前を知っているのだ。夢の最後で必ず「おや、もう時間ですか…寂しいけれど、今日はもうこのくらいにしましょうか、じゃあまたね、○○。早く戻ってきてくださいね。」
お別れする度に鳴り響く鐘の音と、寂しそうに微笑む彼を最後に目を覚ますのだ。
そして最後に彼に会えたのは今から5年も前。彼は最後も変わらず「私を1人にしないでね、必ずまた帰ってきてください」と私の手を引いて寂しそうに笑った。
それから私は夢で彼に会うことも無くなった。夢の中の存在、イマジナリーフレンドのようなものだと思っていても彼の寂しそうな顔を思い出す度に会いに行かなければと気持ちが急く。
また今日も夕方の鐘の音が響く。もうそんな時間か、と空に浮かぶ満月を見上げていると「見つけました」と聞き覚えのある声。
振り返るよりも早く、彼に抱きしめられた。
「あなたが来てくれなくなってしまって私寂しかったんですよ?だから、逢いに来てしまいました。これでずっと一緒に居られますね」
手を取り、蕩けた笑みを私に向ける彼に名前を問う。
「ふふ、私の名前は─」
8/5/2024, 1:16:41 PM