白井墓守

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『心の深呼吸』

大きく吸って、深く息を吐いた。
そして、目の前のスイーツに大きな口で噛み付いた。

口いっぱいに広がる生クリーム、まさに心の深呼吸。

「君は本当に、シュークリームが好きだねぇ」

そういった甘いものが得意でない彼は、見てるだけで胸焼けしたのか顔を手で抑えて顔を背けてしまった。

「だって、美味しいんだもん。シュークリーム」
「理解出来ないよ、僕からしたらね」

生クリームを見るだけで胸焼けがする、と。
まるで老人みたいな事を言う彼に、私は不思議そうに首をかしげた。

「そういえばさ……」
「何? 次のクリスマスプレゼントの話?」
「ちがう、ちがう! そうじゃなくて、心の深呼吸の話!」

私が元気良くそう言うと、彼は首を傾げながら、私の口元に手を伸ばした。

「クリーム、ついてる」
「あ、ありがと!」

「心の深呼吸って、何?」
「あのね、私は心がつらーい! ってなったとき、シュークリームを口いっぱいに頬張るの! そうするとね、まるで深呼吸したみたいに、気分をリフレッシュ出来るんだよ!」
「ああ、なるほど……そうだねぇ……僕は……」

そう言って、彼は私の方をジッと見た。

「え、なになに? まだ私の口に何かついてる?」

そう言って慌てた様子をみて、わたわたしていると、彼はクスリと笑った。

「違いますよ」
「え、じゃあなに?」
「嬉しそうに笑顔で笑う君の姿が、僕の心の深呼吸ってだけ」

…………へっ?
そう言って彼は、思考停止した私のおでこにキスを落とすと、糸目の顔でニコリと笑って離れて行った。
……お、大人だ。


おわり

11/28/2025, 9:28:55 AM