冷瑞葵

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花の香りと共に

 花の香りと共に、それは突然僕の心に現れた。多分大衆的には愛とか感動とかと表現されるものだ。淡い青色の下、小さい黄色のそれは群を成して街を照らし、見る者に安らぎを与えた。力強くも危うい、例えるならば小動物のようなそれは、見る者の庇護欲を掻き立てた。しかし僕にはそんな言葉では物足りなかった。何かこれをもっと適切に言い表す表現があるはずだという強い衝動に駆られた。
 僕はそれから毎日花を咲かせた木々の隣に立った。日常の一部となった花の香りは、いつしか僕自身の香りとなった。美しい花の香りを纏って、自分の香りを嗅ぐたびに僕はまたあの感覚を思い出した。
 そうして僕は黄色い群れを日々眺めていたのだが、先日嫌な噂を耳にした。なんでも、最近子供に付き纏う不審者が頻繁に目撃されるのだとか。
 僕が守らなければならない。僕はそう思った。この感情をどう表現したらいいだろう。やはり、愛とか庇護欲といった言葉に落ち着いてしまうのだろうか。答えはまだ出ていない。
 あの木の隣に立つ理由が2つになった。僕は今日も花の香りと共に、黄色い群れを眺め、見守る。小学校近くの木の下で。空は今日も淡く青色に広がっている。

3/16/2025, 12:48:36 PM