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「窓越しに見えるのは」

少し似ている。子どもの頃よく見た景色に。海に突き出だ灯台で夕陽が沈むのをおばあちゃんと一緒に見た。一日として同じ景色はない。

おばあちゃんは何でもできる。畑仕事をしてごつごつとした手でおはぎを作る。ホットケーキもだ。漬物、梅干し、らっきょう、ヤマモモのシロップ、干し芋などなど。

布団まで縫っていた。私が大きくなって長さが足りなくなると、使わない布団をほどいて綿を入れ縫い直す。

それらの何一つ受け継いでいないことを情けないと思いながら、今日もパソコンに向かう。失ったものと得たものを比べると、きっと失ったものの方が多いし大切なことだった。

後の世代の人たちは失ったと感じることすらなくなるだろう。そういうものがあったことを知ることはあっても、決して失いはしない。元々持っていないのだから。

それでも、決して失わないものがある。この夕暮れ時の時間だ。年に数回泊まりに来るこの民宿の窓からは、沈む夕陽を眺めることができる。それが美しいと感じることを何者も奪うことはできない。

パシャリと今日の一枚を撮った。おばあちゃんを想いながら撮った今日の一枚は、いつ撮ったものとも違う。

少し迷って彼に送る。言葉は添えず写真だけ。

「いつそこに連れて行ってくれるの?」

ここに来る時はいつも一人だ。写真を見せたのは彼をここに呼んでもいいと思ったから。それくらい大切になったのだと伝えたかった。

「次に来る時は一緒に」

窓の外に鳩が来た。羽根を広げてくつろいでいるのかな。君もあの夕陽が好きなの?

7/2/2024, 12:25:39 AM