ダンゴムシがアスファルトを進む姿を見つけて、ぼうっと、私は今までに幾つの命を散らしたのだろうと考えた。
彼の背中の光沢が、車のタイヤの影に入って鈍くなる。
再び太陽の下へ出れば、甲殻にきらきらと光が反射して、
生命の輝きを背負って歩くような、そんな風に見えた。
文字を打っている間に、彼は私の靴の影に入る。
安心しきって、とは違う。知らないのだ。気付けないのだ。
足を動かさないように気をつけながら、
彼が隠れているであろう靴先を見つめて、そっと考える。
誰かの生命が、誰かの行動によって散らされる限り、
この世は信頼で出来ている。
対向車への信頼。後続車への信頼。
運転手への、車の整備士への、製造者への信頼。
誰かの信頼によって私達は生き延びる。
でも、彼等は?
私達は必ず、生命に優先順位を付けてしまう。
運転する時は、地を這う小さな命は『見えないもの』で、
無情に、非情に、私達は彼等を切り捨てる。
ダンゴムシは安寧を求めて、光を影を、
ぐるり廻るように歩き続けている。
影を追って、私から離れていく彼を見て、
「私から離れる事」が彼にとって「危機から離れる事」で
あって、それが正しい生き方なのだと思った。
そのまま進んで、誰もいない場所へと
行ってしまったらいい。
車も自転車も人も来ない、静かな森の中へ。
『静かなる森へ』
そんな森も無くなっていきますね。
目の前のダンゴムシは、車の来ないところまで運びました。
人って、こういうものですよね。
それを愛せるか否かを考えていくのが哲学なんでしょうか。
5/11/2025, 1:58:33 AM