コンコンコン、と玄関の扉が鳴った。
私は思わず硬直する。
というのも、
今は深夜2時ぴったり、
ちょうどお手洗いから帰る途中、
玄関の前を通りかかった、
その瞬間にノックが鳴ったためだ。
あまりにも完璧なタイミング。恐怖を感じるなという方が無理な話だ。
私は恐る恐る、ドアスコープを覗く。
誰かいるようだが、暗すぎて視認できない。
開けるべきだろうか?開けないべきだろうか?
身の安全を考えるとどう考えても開けるべきではないのだが、だけれども、こんな深夜の訪問者だ。
さっきの完璧なタイミングのノックといい、
正直かなり奇妙に感じたが、不思議なことに、
私の心には恐いもの見たさ的な好奇心が芽生えていた。
『もし幽霊だったらどうしよう?』
そんな不安とも期待とも判断がつかない感情を抱えてしまった私は、
勇敢に勇気を出し、思い切って果敢に思いきり声をかけてみた!
「ど…………どちら様……ですか?」
蚊の鳴くような声しか出なかった。
それでもドアの向こうには届いたようで、こちらとは対照的にはつらつとした声で返事が返ってくる。
「佐々木だよ〜。久しぶり、元気してた?」
脳裏にはっきり姿が浮かぶ。
そこにいたのは佐々木だった。
幼稚園からの幼馴染で、大人になってからも仲がよかった、佐々木がいた。
「さっちゃん!?」
私はすぐにドアを開ける。
本当に佐々木がいる。夢かと疑ってしまった。
「久しぶり〜、1年ぶり?2年ぶり?まあとにかく久しぶりだね〜!」
「本当にね!私ずっとさっちゃんと話したかったんだよ!?」
今が深夜であることも忘れて談笑する。
小さい頃の話だとか、同窓会の話だとか、
そんな他愛のない昔話で盛り上がって。
「せっかくだから、少し上がっていい?」と佐々木が言ったため、二人並んでリビングのソファに座る。
お茶を出そうとしたけど、「話だけしたらすぐ帰るし」と佐々木が言ったので、そのまま話す。
リビングに来てから話はより一層盛り上がった。
でもやっぱり話題は昔話である。
そういえば、会えなくなってから佐々木が何をしているのか、私は知らないな。
人は合わない人に対して無関心になるものだな。
そう思い、私は佐々木の方に振り返る。
「ねぇ、さっちゃんは――――」
そこに佐々木はいなかった。
と、同時に違和感の感覚を思い出してくる。
“あれ、こんな深夜に訪問されて、なんで何も気にせず話してたの?”
“佐々木と話してる途中、なんか私言いなりになってなかった?”
“私と佐々木、なんで会えなくなったのかを思い出せない”
“そもそも、佐々木は一年前死んだはずじゃ?”
私はその場に崩れ落ちた。
動揺で体の震えが止まらない。
喜びではなく、恐怖によって。
佐々木に会えたのが嬉しくないわけじゃない。
しかし、こういう出来事があった以上、記憶の信用は失われてしまうのだ。
本当に佐々木は私友達だったのか?
幼馴染と言うのも本当なのか?
そもそも佐々木は本当に実在したのか?
その夜はどう足掻いても眠れなかった。
私には卒業アルバムを開く勇気も、
知り合いに聞く思いきりも無かった。
テーマ:突然の君の訪問。
8/28/2024, 5:39:03 PM