(深夜03:00〜04:00)
この時間帯だけに接続できるフリーWi-fi があった。
「おはよう、元気にしてる?」
「ああ、なんとかね。ようやく仕事に一区切りがついたところで、これから寝るところ」
飄々とした態度で根無草のように捉えどころのない30代後半の男性の声であり、軽い疲労感が滲み出ていた。Bluetooth の向こう側の君がすぐ隣にいるような錯覚を覚えながら月を見上げていた。
「こっちは満月だよ。しかもブラッドムーン。君に見せたかったな」
小さい頃は夜中にこっそり抜け出して公園のブランコで満点の星空や群青色の空に浮かぶ月を指さしては何に見えるかと語り合っていた。
「そうなんだ!見たかったなー、ブラッドムーン。写真くらいなら送れるかもしれないから申請してくれない?」
わかった、手続きしてみるね。
何気ない会話。けれど決して交わることはない。
西暦2351年、月流し法が可決された。かつては島流しや電気ショックが一般的だったが、現在は機械による自動化が進み人件費が軒並み高騰していたため、コスト削減の一環として広く普及していた。
かつて君と見上げた月は脱獄不可能な刑務所となった
題『君と見上げる月…🌙』
9/14/2025, 7:35:13 PM