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遠くへ行きたい

 雨がようやく上がって虹がかかり、私は雨宿りの大木を離れて森の外へ出た。
 虹のふもとでは髭のレプラコーンが、せっせと壺を埋めている。
捕まえて中の金貨を奪おうか、いやいやすぐに立ち去ろう。
向こうの丘から、黒馬に変身したプーカが走って来るのが見えたから。


 ……と楽しく文字を打っていると、表で洗車していた夫が汗だくで戻ってきた。
私は急いで秘密の書くアプリを閉じる。
 エアコンの効いた部屋と冷たいパイナップルジュースに
「あー、家の中は天国だな」
と一瞬ため息をついた夫はすぐ
「今日はどこへドライブする?ちょっと遠出してみる?」
などと言う。
まあ、じっとしていられない人なのだ。
 この暑い中出かけなくても、充分心は遠くへ飛んでたんだけどな…と思いながら私は帽子を手に取る。
 どうせなら、人魚を探しに海まで行きますか。

7/4/2025, 1:38:29 AM