出先で見かけた赤い雛壇に足を止めた。
私の家に飾られていたのは最上段の二人だけだったから、二桁に届いていそうな大きく豪華なそれが珍しかったのだ。
「三人官女と五人囃子と……赤い方が右大臣だっけ」
人形達の細かな役職も飾られた道具の意味も、今となってはほとんど忘れてしまったが。案外3番くらいまで思い出せた歌をなぞって顔を覗き込む。
「……単純に、『綺麗な人』って意味だと思ってたんだけどね」
官女の真っ白な顔に、『お嫁に入らした姉様』の苦労を忍ぶなど。そんな大人の哀しみを、赤い夕日と共に背負い歩き出した。
<ひなまつり>
3/4/2024, 9:07:21 AM