南葉ろく

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 根付いた癖というものは、どうにもなかなか直らないものだ。
 横から見て、角度、おおよそ30度。ほんのりと、けれどたしかに。油断すると、いつも顔は空のほうを向いている。晴れだろうと、雨だろうと。鼓膜にこびりついてしまった聲を憶い出すと、勝手に顎は緩やかに空を向いてしまう。古くからの友はそれを見るたび、呆れたように肩を竦めてしまうのだけど。またやってるぞ、だなんて指摘がセットだったのは遠の昔の話だ。
 夏だなんて、とくにそう。だってこんなにも暑いのだ。太陽に近付けばさぞ身を焦がし、風はからだのみずを奪っていくだろう。どうか木陰で、すこしでも涼んでくれたら、と祈らずにはいられない。祈って、そしてまたそんな自分に呆れてしまう。

 たいようを、ちかくにかんじてみたいの。

 聲が、聞こえるから。
 分かってはいるんだ。きみはそこにはいない。上がりきらない口角で、いびつな笑顔で。簡素な部屋のなか、ささやかな、実にささやかな願いをそっと音にしたきみのその聲がいまも聞こえるから。
 空を見上げたら、上手に微笑うきみのすがたを見れるのでは、だなんて。莫迦なことを考えてしまうんだ。
 今日も聲が聞こえる。そういえば昔からきみは天使みたいた人だった。見上げれば、きみと目が合うかも。今日も気付けば上を向く。

 ――ああ、今日は快晴だ。





テーマ「鳥のように」

8/21/2024, 10:32:45 AM