一筋の光
何処かに出た。…周りを見回す。私は一室の床にへたり込むような形で膝をつき、両手を床に置いていた。背後に格子の窓があるようだ。月の光か街の灯りかわからないが、薄ぼんやりと明るさは感じられる。
「下」を通ってここに出た。練習がてらだが、地球の裏側と言っていいほど、私の居る場所から離れた街の何処かへ、知る人を目印に「飛んで」みたのだ。……ちゃんとできているのか判然としない。はて、確認のしようが無いぞ、と自分の迂闊さに思い至ったとき、その部屋の私が居る反対側の床に一筋の光がさした。細く射し込んだ光は幅を広げてゆき、この部屋にベッドが置かれているのが見えたところで、ようやく私は気づいた。今この地域は日暮れの後、つまり夜の時間帯で、射し込んでいる光は隣の部屋の灯りで、この部屋のドアを誰かが開けたから、床に光が当たり出したのだと。
開いたドアのノブを握っている誰かを見てみた。私の姿など誰にも見えず、認識できないであろうから、何も問題は無い……と思ったらその誰かと目が合った…いや、気のせいだろう……だが、だがしかし、その誰かは私から目線を外さないまま、隣の部屋に引いて行くようにパタンと静かにドアを閉めた。…あれ? 認識された…? この姿を…? 待て、この姿。私は「下」を通って来たのだ。重く纏いつく泥もかくやという、そんな「層」を渡ったので、私はまだデロデロと余計なものをくっつけたままなのだ。はっきり言ってバケモノじみたものに見えても不思議ではない。……見えたとしてだが。
それより、そんなことより。この部屋はどうやら寝室、「怖くて使えない」なんてことになったら、とんだご迷惑というやつだ。どうしよう、いや、どうしようもない。どうして「下」を使ったのか自分。「上」で来りゃよかったのに…内心もんどり打つ気分になったが、ここはとっとと去るに如くは無し。「うきゃー、ごめんなさいでしたぁー!!」なんて、届くわけない文言を繰り出しながら退散した。
暗闇に射す一筋の光、ほうほうの体で逃げ出した学び。いやはや、ポンコツなのは生来か…
11/6/2024, 12:17:31 PM