蝉の声。真っ青な空と積乱雲。
乾いた空気が頬をなでるなか、坂道を登っていた。
「ごめんねー手伝ってもらっちゃって」
へらりと笑って言う。今日は坂の上にある彼女の家に、荷物を取りに行くところだった。
「いいよ全然。運ぶのって、絵の具だっけ?」
「うん。キャンバスとイーゼルはあたしが持つから、桜は絵の具、頼むね」
「りょーかい、お任せください♡」
おどけた調子で二人は歩く。
坂はまだ続く。蝉の声がする。
「あ、そういえば」
「ん?」
「抹茶アイス、あるけど食べる?」
「食べる!」
じゃあ家に着いてからだね、と返ってきた。
「そういえば、カエちゃん好きだったよねー抹茶味」
「楓?あー好きだったね。絶対チョコ好きそうな顔してるのに」
「ねー!けっこう意外だったなー」
かつてはこの道も3人で歩いた。
うだるような暑さの日、抹茶味のアイスがあると告げると、彼女は大袈裟に喜んでみせたのだった。
「なんか、懐かしいね」
「…うん」
丘を登りきって息をつく。見下ろす景色は何ひとつ変わっていなかった。
3/22/2025, 12:09:55 AM