紫陽花《しょか》

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 これまでずっと、私は普通に生きてきてた。確かに父は家にいなくて、友達と放課後に遊ぶなんてことも無かったけれど、母とは上手くやってた。勉強も頑張って理解して、良い点数も取れるようになってきた。その時に褒めてくれる母は、とても優しかった。

 目の前に降ってきた、綺麗に研がれた刃は今は無い。目の前にいるのは友達の安らかな寝顔。私だって友達と同じ布団に入って寝てた。夢なんだ、きっと。
 でもあんな鮮明な夢があるだろうか。目を閉じずともありありとその場面が脳裏に浮かぶ。確かに母は、私と縁を切りたいと言い、包丁を振りかぶった。記憶に残っている。なのに、私自身の身体がそれを覚えていない。
 やっぱり、夢で練られた捏造の母だろうか。
 私はふと寒気を感じて友達を起こさないように起き上がる。窓にかかるレースのカーテンが揺れている。秋の小風が入り込んでいるのだ。
 忍足で窓に近づき、音を立てないように慎重に閉める。風が入らなくなった途端に舞っていたカーテンがぶわりと落ちてきて、私に被さる。レースは思いの外心地よい肌触りだった。
 まだ友達の彼女は寝ている。かなり眠りが深いようでホッとした。しかし、流石にドアを開けて外に出ると起きだろう。だから私は部屋にある椅子に座り、彼女の本を拝借する。寝息を聴きながらの読書をしていると、ほんの少し、眠気が再度訪れる時があった。

 これまでずっと、これからもずっと、私は普通に生きていく。たまに見る夢がより鮮やかになろうと、もはや家が友達の彼女の家になってきていようとも。

【これまでずっと】
お題が更新されるごとに進む物語No.4

7/12/2023, 11:40:10 AM