夜に懸ける

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別に君のことなんて好きじゃない。
頑固だし、一人で突っ走るし、どんくさいし、おまけに服のセンスはダサいし。
でも、仕事熱心で、何でも一生懸命になって、自分のことよりも他人のことばっかり優先して。
そんな君が心配で、気になって、目が離せないなんて。

(僕もどうかしてるよね…)

隣に座る彼女を見やる。
今日の飲みの約束に遅れてやってきた彼女は、大好物の芋焼酎をたらふく飲んで気が済んだのか、うとうとと眠りはじめていた。
ここのところ、仕事が大詰めでろくに寝ていないと言っていた。相当疲れが溜まっているのだろう。

(仕事熱心なのはいいけど、もうちょっと自分のこと大事にしなよね)

だらしない顔で寝こける彼女の頬をつつく。
一瞬顔を顰めたが、起きることはなかった。

「ちょっと起きなよ。こんなところで寝ても疲れ取れないでしょ。」

今度は肩を揺すってみる。
うーん、と何か唸っていたが起きる気配はない。

(よくもまぁ、無防備に寝てられるよね…)

なんだか疲れている彼女を無理に起こすのも忍びなくなり、すやすやと眠る寝顔を眺めるだけに留める。
どこでも寝られるこの子の図太い神経が少し恨めしい。
寝落ちる前に、「今日会えるのすごく楽しみだったんですよ!」と嬉しそうに話していた君の顔が頭に浮かんだ。

「僕も楽しみだったよ」
さっき返せなかった言葉が、今になって自然と口に出た。

君と会えるたび、嬉しいと思う。一緒に過ごす時間を楽しいと感じる。君のことが大切なんだと思う気持ちが何なのか、僕は気づいている。
だけど、素直じゃない僕は、どうしてもそれが伝えられないままだ。
人の気持ちには聡い君だ。きっと僕の気持ちなんてとっくにわかっているだろう。

「…別に君のことなんて、好きじゃないんだからね。」

早く起きて僕に構ってよ、という気持ちを込めて、未だ目を覚さない君の額にデコピンを喰らわせた。

3/25/2023, 1:27:38 PM