シン

Open App

【約束】
“来年もまたこの丘の上、一緒に星を見よう”
それが兄と交わした最後の約束

僕はもともと体が弱かった
双子の兄は元気いっぱいの健康体だった
必然と両親は僕にばかり構っている様になり
兄の方はひとりでいることが多かった

兄は時より僕の部屋に来ては
外の世界のことを沢山話してくれた
外にあまり出ていられない僕にとっては
兄の話を聞くことだけが
外の世界を知ることができる機会だったし
唯一の楽しみだった

ある夜、兄が僕の部屋を訪ねて来た
「星を見に行くぞ」
「えっ、でも僕は…」
「いいから、俺がおぶって行く、さぁ、乗れよ」
「う、うん」

「うわぁ…」
「きれいだろ」
「うん、きれい」
「来年もまたこの丘の上で星を見ような」
「その時はにぃも一緒?」
「あぁ、にぃも一緒だ」
あの夜は兄に魔法をかけられた様な
そんな大切な思い出だ

きっとこれからもそんな思い出を積み重ねていける
そう思った矢先、兄は交通事故でこの世を去った
僕も容態が悪化し、入院することが増えた
畳み掛ける様な不運に
「僕はきっと、幸せになることが
    許されないのかも知れない」とまで思った

僕の臓器はボロボロで今すぐ臓器移植が必要だと
医師に告げられた
ドナーになってくれる人なんて
すぐには見つからないし
仮に見つかったとしても
適合するかなんてわからない
本当、僕は…僕たちは親不孝者だ

ある日、周りの騒がしさで目が覚めた
医師から僕のドナーが見つかったのだと知らされた
僕のドナーになってくれるなんてどんな子だろう
僕はドナーの子のことを考えていた

両親が来て「良かったね」って言っていたんだ
でも、少し目が赤くなっていた
それで僕は気づいてしまった、僕のドナーは
ついこの間、交通事故で亡くなった僕の双子の兄だと
でなければこんなに早くドナーが見つかるはずがない
両親は決断したんだ
自分の息子の臓器を提供することを
それがもう1人の息子のもとへ届くと信じて
臓器は無事適合した
僕は臓器移植を受けた

そして、数年後僕は約束の丘に来ていた
「今年の星もきれいだよ、兄さん」
「あれから、沢山リハビリをして
            やっと約束を果たせるよ」
兄さんはこれからも僕の中で生き続ける
「来年もまたこの丘の上で星を見ようね、兄さん」

3/4/2025, 1:27:20 PM