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【素足のままで】

自分が産まれるよりずっと前から、外に出るときは靴を履くのが当たり前のことになっているけど、人間はもともと素足のまま過ごしていたはずだ。

リビングで靴下を脱ぎ、裸足で玄関に行って、ゆっくりとした足取りで外に出てみる。
玄関先のコンクリートの床が案外温かい。少し日陰になっているとはいえ夏だし、温かいのも当たり前だが、裸足にならなければ意識しなかったことだろう。

庭に回って土の上を歩いてみれば、足の裏から心地よい温かさが伝わってきた。
この時代に靴も履かず、素足で大地を踏みしめていると、なんだか昔の人になった気分だ。昔の人たちにとっては、この温かさも珍しいものではなかったのだと思うと不思議な気分になる。ご先祖さまのことを考えつつ、時間を忘れて土遊びをした。

しばらく子どものころ以来の土遊びを楽しんだあと、庭から家の前に戻った。家の前の歩道はアスファルトで出来ている。歩いてみると、やや熱くてゴツゴツとしていて、ときどき細かな石を踏んでしまうたびに痛かった。

なにげなく向かいの家の方の道を見遣れば、飲みかけのペットボトルや割れた栄養ドリンクの瓶が落ちていた。
自分が小学生のころは、こんなにゴミなんて落ちていなかった気がする。悲しいような虚しいような、ほの暗い気持ちになった。うんと昔の人は、ペットボトルや瓶もなく不便だっただろう。だが、このようなゴミを見て気分が落ちるような経験もなかったはずだ。
生活が便利になるのはいいことだが、それに比例して人々が失ってしまったものや、忘れてしまったものもたくさんあるのではないかと思った。

今は素足だから、ガラスの破片なんかを直接踏んだら怪我をしてしまいそうだ。素足のままあまり遠くまで歩いていくのはよくないかもしれない。一旦帰るとするか。

素足のままでほんの少し歩いただけだったが、帰ってきて足の裏を見たら真っ黒だった。普段は靴が守ってくれているから綺麗なままでいられるんだなと思った。雑巾でひとしきり拭き取ったあと、風呂に直行した。強さの五段階調節ができるシャワーに、泡のまま出てくるボディソープ。昔と比べると便利すぎるアイテムを使って足を洗った。

素足のままで、この時代のこの世界を歩いてみたら。
今を生きる人々が忘れていたものに、ちょっとだけ触れられた気がした。

8/26/2025, 6:16:57 PM