300字小説
叶えたい嘘
俺には人のついた嘘が結晶のように見える。いつもは真っ黒だったり、毒々しい色だったり、見えて楽しくないものばかりだが、エイプリルフールは違う。いつもと違うワクワク感でつかれる嘘はカラフルに色ついて綺麗に見えるのだ。
小学校の登下校の道端に転がっているのは小学生の可愛い嘘。通勤通学の電車のソファに転がっているのはSNSを通して飛び出してきた楽しい嘘。そんな嘘を眺めながら、今日は軽い気分で街を歩く。
病院の中庭から転がってきた透明に光る涙色の嘘。転がる先を目で追うと涙を拭き、顔を上げて病室に向かう女性の姿。
俺はその嘘をそっと拾うと、神社の賽銭箱に賽銭とともに入れ、手を合わせ、この嘘が叶うように祈った。
お題「エイプリルフール」
4/1/2024, 11:35:14 AM