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「俺、彼女が出来そうなんだよ。今日で家来るの最後な。」
台所からカレーを作りながら、料理をするかのように淡々と、そしてあっさりと彼は言った。
「この前言ってたマッチングの女の子?」
「そう。2、3回デートしたんだけど、いい子なんだよ。つーか、夏帆とも合いそう。今度3人で飯に行こうよ。」
ベッドに横たわりながら読んでいた漫画を顔に被せる。
聞くところによると、少年漫画の話で意気投合、3日に一回は深夜まで電話をする仲だと言う。

 亮とは、行きつけのブックカフェで出会った。
3年前の冬、定例の読書会に参加した際に隣に居たのが彼だった。
目鼻立ちがはっきりして、快活でいかにもモテそうなタイプだった。
どうせ流行りの出会い探しの冷やかしだろうと距離を取っていたが、彼の持っていた安部公房の「砂の女」を見て、私は出会いを求める女さながらに話しかけた。
彼は見た目からは想像できないほど柔和で趣深い人だった。

 3年、何もなかったと言えば嘘になる。
友達でも家族でも、ましてや恋人でも、どれにも当てはまらない関係が続いていた。
お互いの家に行き、読書をしたり、語り合ったり、ご飯を食べたり。そんな関係だ。それは、とても心地よかった。

 「彼女」と言う存在が出来たら、この関係は何処に行くのか。別に終わってもいいが、終わる関係でもない様な気もする。
亮にとって私とは。私にとって、亮とは。

古本の何とも言えない匂いが私の鼻を刺す。



「あなた   と わたし」

11/7/2023, 12:13:50 PM