墓守

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『懐かしく思うこと』


10月30日午後7時ごろ

7番街『バー麒麟』のオーナー・きりん



で、聞きたいことって何?
こっちも仕事の休憩時間使ってんだから、つまんない話題だったら即終了だからね。

ははっ。嘘よ。そんなせっかちな女じゃないから安心して。

それにしても、上の人がこんな寂れた店にわざわざくるなんてほんとに珍しいわね。
え?なんで上の人間って分かったかって?
……あんた、そんな傷一つない綺麗な顔ぶら下げてよくそんなこと言えたね。まあ、そうゆう空気読めないとこも上の奴らっぽいかな。

ああ。また話が逸れちゃったね。ごめんごめん、こうゆう話す仕事してるとさ、会話がどんどん広がってくのよ。


『あさがおについて教えてほしい?』

あさがおって誰?
いや、なんか聞いた事あるような……
写真持ってんの?見せて見せて。

……あ、ああぁーー!!
いたいた!そうそう、うちにたまに来てくれてたお客さんだよ。
いやあ、綺麗な顔してたから覚えてたんだよね。
月に1回か2回ひとりでやってきて、うちの店でも結構高めのウイスキー飲んですぐ帰っちゃうの。

今思うと、この人も上の人だったんだろうねえ。
え、違うのかい?
へえ。あんたこの子のこと知ってんの?まあ、だからこそ調べてんのか。

何?男かなんかかい?

野暮なこと聞くなって顔してるね。女の性分なのさ、色恋に首突っ込むのは。

というか、なんでこの子のこと調べてんのさ。
この子になんかあったのかい?


……なるほどね。
てことはあんたはあの子の男ではないのかい。なんだ、つまんない。

不謹慎?知ったこっちゃないよ。
あんたらみたいに裕福な奴らはここの連中ほど人の生き死にに慣れてないだけだ。
この街の裏路地でも覗いて見な。だいたい人の死体やらが置いてあんのさ。そんで、それを見つけたらあんたらに連絡するより先に懐の金銭を奪っていく。

あんたにそんな泥臭い連中の気持ちがわかるかい?


謝んなくたっていいさ。偽善者っぷりが気に食わないだけだから。


あ、最後にだけどさ。
あの子…あさがおについて。

あさがおが初めてうちに来た時、別の奴も一緒だったよ。
男か女か?
覚えちゃいないね。

あたしとあの子は赤の他人だ。
もちろん、あの子の連れともね。

思い出?

そんなのある訳ないじゃない。
思い出ってもんはね、その相手に対して自分が向けた感情を言うんだ。



懐かしく思うこともない知らない女に対して、なんの思い出があるっていうのさ。



さ、あたしから出来る話はこれで終わり。
仕事の続きやるからさっさと帰んな。
客としてなら歓迎するよ。


10/30/2024, 10:43:28 AM