「この前貸したあの小説読んだ?」
休日のガヤガヤとうるさい昼下がりのフードコートに少しハスキーなよく通る声が響く。
「読んだけど……」
「感想は?」
「あの……あれだ。最後、ハルが世界に色が戻ったみたいっていうところ、よかった。感動した。」
「だよね〜〜。あなたがいない世界は色褪せて見えるってハルが言ってるシーンあるから際立つよね〜。」
ハスキーな声の女が、シェイクのストローを弄びながら、ポテトを口に運ぶ。
「なんかありきたりなセリフとシチュエーションだったけど、面白かったよ。」
「でしょ?あの作家さん、そういうのが得意な人なんだよね。」
おれが言ったことがお気に召したのか、食べていいよ、というように自分の分のポテトの容器を俺の方に向けて女は喋り続ける。
「でさ、」
おれが食べようとすると女はポテトを自分の方に引き、まるで話を聞け、というふうに爪で机をこつ、とつつく。
「私はね、〝あなた〟がいない色褪せた世界の色じゃなくて、〝あなた〟がいる色鮮やかな世界の色が好きだよ。」
「……おれにあの小説貸したの、それ言いたかったから?」
「……さぁね。」
好きな色
6/21/2024, 1:23:23 PM