霧夜

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常に、努力し続けた。

...全ては、父の言う「価値のある人間」になる為に。

価値のある人間の定義なんて、正直言って俺自身よく分かっていない。

けれど、父からして見れば

俺はまだ「価値のある人間」では無いらしい。

だから...だから。

そんな父に、「価値のある人間」と認めて貰えるように

常に只々勉学に励んだ。

......

来る日も、来る日も。

ずっと...ずっと。


-----

今日も今日とて、図書室で勉強に勤しんでいた。

この図書室は基本人の出入りが少なく、静かな為何気に俺のお気に入りスポットだ。

...まぁ、勉強できればどこでもいいのだが。

「......冷たッ...!?」

そうして机に向かっていると、不意に、冷たい何かが頬に当たった。

「...フッ...面白い反応するな...」

なんなんだよ!?と思い顔を上げてみると、そこには俺よりも成績も何もかも優れた生意気な後輩がいた。

...両手にそれぞれコップを持ちながら。

「...お前、また来たの?」

無意識に、そんな言葉が口から零れた。

そう、この後輩。数ヶ月前からこの図書館に...しかも俺のところにわざわざ来るようになったのだ。

「あぁ、来た」

そういうや否や、当然と言わんばかりに俺の隣に腰かけ、コップをひとつ差し出してきた。

「...なにこれ?」

「何って...フルーツポンチだが?見て分からないか?」

「いや、見てわかるが...なんで??」

「...少しは休憩したらどうかと思ってな...わざわざ作ってきた。感謝しろ」

なんだこいつ、上から目線すぎじゃねぇか?

と思いながら

「いやいや意味がわからん、というかなんでフルーツポンチなんだよ??」

「...前に先輩からお前の好物のことを聞いたんだ。...つべこべ言うな、食べろ」

「いやだから...はぁ、分かった、食べるから...」

このままだといつまで経っても攻防が終わる気配が見えなかったら、仕方なく俺の方から折れて食べることにした。

「...最初から素直に観念しておけばいいものを...」

いや本当、なんなんだこいつ...なんて心の中で愚痴る。

最近は毎日こればっかりなのだ。

勉強を教わりに来たと言ったかと思えば、懐からお菓子を...しかも手作りのやつを取りだして渡して来るし

今回みたいに、突然現れて食べ物を渡してくるようなこともある。

こいつの行動は最近理解不能だな...そう思いながら、フルーツポンチを一口口の中に含む。

...悔しいが美味い。

いや、まぁ確かに料理は上手いと感じてるし認めてるし...だけどそう言うなんでも出来るところに腹が立ったりする。

...料理ができない俺からの一方的な妬みだが...。

「...そんなに美味いのか」

「...はい?」

「いや、嬉しそうな顔しながら食べてるからな...」

「な!?そんな顔してねぇよ...!!?」

「いや、俺にはそういうふうに見えた。よっぽど好きなんだな」

「そんなことねぇよ...!?いや、好きじゃなくは無いけど...」

「声がでかい、...好きなら好きと言っておけばいいだろう?」

「いや、そりゃそうだけどさぁ...---」

---楽しい

こいつと関わり始めてから、そう思うことが増えた。

ずっと勉強で張りつめていた何かが、スっとほぐれるような感覚になれる、

不思議な感覚に包まれる。

ずっと、ずっと、勉強しかない、勉強をしないと...しないと

と思っていた俺の気持ちを、変えてくれた。

こいつとの、一時の休息の時間。


声に出すのは恥ずかしいから、今ここで言っておく。

「ありがとう」と

#束の間の休息
83作目

余談
実はこの話、あるアニメ?漫画?のキャラの要素を結構入れて書いてます( ˘ω˘ )
そのアニメが好きなら結構わかるかも。...いつもの話もこのキャラのことを考えて書いてることが多いですが...

はい、以上。どうでもいい余談でした。
ここまで読んでくださっている方がいましたら、ありがとうございました。

10/8/2023, 12:32:54 PM