いろ

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【静寂に包まれた部屋】

 あと数分もすれば朝日が登り始める、そんな僅かに白み始めた夜の町を、仕事で疲れ果てた体を引きずって歩いていく。アパートのボロいノブをひねれば、簡単にドアは開いた。まったく、また鍵を閉めていなかったらしい。後で叱っておかないと。
 手狭な和室の片隅に敷いた薄い布団に、君が眠っている。起こさないように部屋へと入り、その横へと膝をついた。
 静寂に包まれた部屋の中、君の存在だけが僕の漠然とした寂しさを慰めてくれる。君がいるから僕は、どんなに疲れていようともこの家に帰ってきたいと思えるんだ。
 しきたりに雁字搦めの古臭い村を、二人で手を取り合って逃げ出した。今日のような静謐な夜には、嫌と言うほどに実感する。僕たちはこの広大な世界で二人きりなのだと。だけどそれを恐ろしいとは感じなかった。
(君と二人なら、どんな場所でも生きていける)
 ぐっすりと気持ちがよさそうに眠る君の横顔を、窓から差し込み始めた朝日が柔らかに照らしていた。

9/29/2023, 9:36:20 PM