たやは

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凍える朝

寒い。寒い。毎日、毎日飽きずに降る雪。その雪を巻き上げブリザード。この町は、雪と氷に閉ざされた要塞だ。

町の人間は冬が過ぎるのを待つだけだったが、温泉が出てからは冬でも温泉目当ての観光客で賑わう町となった。

俺は山で木を切り、その木を薪にして温泉宿に売る仕事をしている。いわゆる山守りだ。山の木は管理しておかないと枝が伸び過ぎて、太陽の光が届かなくなる。そうなれば、小さな木の芽に光があたらず、新しい木が育たなくなる。山が衰えてしまう。
山を守るのが俺の仕事だ。

朝に家を出て、山に向かって歩き出す。
それにしてもよく降る雪だ。今年は、寒さが強く、雪も多いし、山の仕事には辛い日ばかりだ。

「あの。おはようございます。ここはいい街ですね。すみませんが、道が分からないので教えてもらってもいいですか。」

若い女だった。温泉にきた観光客だろう。こんな凍える朝から温泉巡りとはいい身分だ。そうだこの女にしよう。

「いいですよ。どこですか」

女が地図を見せようと一瞬背中を向けた時、俺は持っていた鎌を振り上げた。あとは振り下ろすだけだ。
何が温泉だ。温泉巡りだ。観光客目当てにあちこちの山を崩し、ホテルやレジャー施設を建てやがって!
俺がずっと守ってきた山が金儲けのために壊されていくのは許さん。

この前の女は、ギャア、ギャアうるさかったが、町で殺人がおきて温泉施設も休業となった。半年位は静かな町に戻ったが、時間が経てば、うようよと観光客がやってくる。
この女で4人目。また静かな町が取り戻せる。

鎌を振り下ろすために手に力を込めた時、女が振り返った。女の顔は、恐怖におののき叫び声を上げるかと思ったが、その顔は口角があがり、ニヤリと笑っていた。

「あんたが犯人だったのね。警察です。」

女の手にには拳銃が握られ、銃口が自分に向けられている。振り下ろす前に撃たれる。死にたくない。
鎌から手を離すしかなかった。なぜ、なぜ俺だとバレた。いつも早朝の誰もいない時間に殺っていたのに。目撃者なんていないはすだ。

「こんな凍える朝の犯行なんて、限られた人間しかいないなよ。あなたのように朝早くから山に仕事にでかける人間とかね。」

俺がいなくなったら誰か山を守るのか。

「町の人たちが山を守ってくれるわ、こんなに寒い町で暖炉の薪がないなんて考えられないでしょ。開発もこれ以上は進まない。人間はそんなに愚かではないわ。きっと。」

11/1/2025, 7:40:07 PM